事業継承・M&A

M&Aで歯科医院の売却に成功した事例

地域No.1から全国トップクラスへ!歯科医療法人M&A成功の秘訣

東日本で2000年代に創業し、自身で所在都道府県トップクラスの医療法人に成長させた後、M&Aによって法人の規模を拡大させ続けている歯科医師の事例です。

40代後半の理事長が率いるこの医療法人は、M&A前から5院以上を展開し、スタッフ数は100名超、年間売上高は10億円を超える、大型の医療法人でした。

しかし、法人のさらなる成長と従業員の安心の2つを同時に叶えるため、投資ファンドへのM&Aを決断しました。

水谷 友春
■ 監修者

日本歯科医療投資株式会社 代表取締役歯科医師:水谷 友春

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M&A決断の背景

所在都道府県でトップクラスの規模を達成したこちらの理事長ですが、2つの課題に直面していました。

1つ目は、ここから日本トップクラスの歯科医療法人を目指すには、壁は厚く、個人の力では資金調達や成長スピードに限界があること。
2つ目は、100名を超えるスタッフの生活が、経営者である自分1人の判断や健康状態に左右されることに対する不安でした。

これらの課題を解決するためには、「医院成長のために、より多くの資金を調達したい。」や「自身が今と同じように働けなくなっても、法人の経営に影響が出ないようにしたい。」と考えるようになり、より大きな組織のグループに入ることを考えはじめます。

M&Aによる新たな展開

この先生は、最終的に知名度のある日系投資ファンドへのM&Aを決断されましたが、それにより、以下のメリットが生まれました。

  • 100年続く医療法人への道筋をたてることができた
  • 投資ファンドの潤沢な資金を活用した医療法人経営が可能になった
  • 新しい働き方を獲得できた(後述)

この先生はM&Aによる売却後も、買手の投資ファンドと一緒に最低でも5年間は働くことを選択し、現在も理事職を務めながら、投資ファンドにおける歯科医院投資の意思決定のパートナー(実質的な現場の責任者)として活躍しています。

また、M&Aをきっかけに、売主の先生は以下のような新しい働き方を獲得し、そのライフスタイルは大きく変化しました。

  • 投資ファンドと共に買手側としてM&Aに関われるようになった
  • M&Aで引き受けた他地域の医院への出張をするようになった
  • 優秀なファンドマネージャーという経営パートナーを獲得できた

まさに日本でも例を見ない、全国に約11万人いる歯科医師の中でも唯一無二の働き方を獲得したことになり、理事長自身も大きな充実感を得ています。

成功の鍵

本事例の成功の鍵は、以下の点にあります。

  • 自身の歯科医院の課題を認識し、その解決方法を幅広く検討したこと
  • 適切な譲渡先(投資ファンド)を選択したこと
  • 譲渡後も自身がイニシアチブをとる意欲があったこと
  • 新たな働き方を楽しめる性格

売手側の成長手段にもなるM&A

東日本の所在地域でトップクラスの歯科医療法人が、投資ファンドとのM&Aを通じてさらなる成長と安定を実現した事例を紹介しました。

本事例は、M&Aが単なる引退のための事業売却ではなく、自らが創業した法人をさらに成長させるとともに、自身がさらに精力的に活動するきっかけとなり得ることを示しています。

適切なパートナー選びと明確なビジョンがあれば、M&Aは歯科医院の規模の拡大のみならず、従業員さんや患者さんの生活の安定にも資する可能性を秘めています。

歯科医院M&Aで経営者の悩みを解決!新たな人生を切り開くことに成功

東北地方で5院以上を展開する歯科医療法人が、投資ファンドへのM&Aを成功させ、経営者の心機一転と創業者利益の獲得を実現した事例を紹介します。

1990年代に創業したこの医療法人は、一般歯科・インプラント・矯正を手がけ、70~90名のスタッフを擁する地域No.1の歯科グループへと成長。

売上高約10億円という優れた業績を誇る中、40代前半の理事長は新たな挑戦を求めていました。

M&A決断の背景

理事長は歯科医院を長年経営するなかで、以下の課題を感じるようになりました。

  • 歯科医院運営に対する飽き
  • 役員報酬の税率の高さ
  • 経営責任の軽減希望

M&A仲介会社からの提案をきっかけに、理事長は既に歯科医院を所有していた投資ファンドへの譲渡を決断。

出資持分譲渡と医療法人の吸収合併を組み合わせたスキームを採用し、医療法人の売却に成功しています。

M&Aによる新たな展開

投資ファンドによるM&Aによって、理事長には以下の変化が生まれます。

  • 勤務形態の柔軟化:週5日から週4日勤務へ変更
  • 長期休暇の実現:年2回の長期の家族旅行が可能に
  • 専門性の活用:他院でのインプラント出張手術の実施
  • 経営負担の軽減:理事職からの退任
  • 財務的余裕:低税率の譲渡所得による個人資産の獲得

理事長は3年間の継続勤務契約を結び、院長(管理者)として診療を続けているものの、経営者のワークライフバランスを大きく改善しました。

家族と過ごす時間の増加、専門性を活かした新たな挑戦、経営ストレスの軽減など、多面的な価値を創出しています。

成功の鍵

今回のM&Aによる成功のポイントは、以下の4つといえます。

  • 適切なタイミング:業績好調時のM&A実施
  • 明確な目的意識:創業者利益獲得と経営負担軽減
  • 柔軟な契約条件:勤務形態の自由度確保
  • 既存システムの活用:労務管理体制の維持

経営者の未来の可能性を広げるM&A

本件のM&A成功事例は、歯科医院経営者にとって経済的自由の獲得と時間的自由の獲得の観点で、M&Aが有効な選択肢となり得ることを示しています。

業績好調時こそ、将来を見据えたM&Aの検討が重要です。

経営者の人生設計と事業の継続性を両立させる手段として、M&Aは大きな可能性を秘めていることが改めて認識できたでしょう。

歯科医療法人のM&Aがもたらした経営者のQOL向上と事業発展

40代前半の理事長が率いる、出資持分なしの医療法人の事例を紹介します。

首都圏に5院以上を展開し、80~110名のスタッフを抱え、年間売上高10億円超を誇る地域No.1の歯科医療法人でした。

健康不安をきっかけに検討したM&Aが、理事長の生活の質を向上させ、医療法人のさらなる事業拡大につながった成功事例です。

M&Aの決断の背景

売上は順調に伸びていたものの、この理事長は完璧主義な性格。

分院視察時に、ユニットのアームの上に埃がたまっていることにもストレスを感じるなど、規模の拡大ととともに、そのストレスは増加の一途を辿っていました。

そんな中、この理事長は、ある日、突然、過呼吸に見舞われます。

自身でコントロールできない心身の不調を前に、ストレスの軽減が大切だと痛感し、医療法人のM&Aを決断しました。

M&Aによる新たな展開

出資持分なし医療法人のため、売手・買手双方が納得できるスキーム構築は容易ではありませんでしたが、医院の事業譲渡・役員退職金・MS法人の株式譲渡を組み合わせたスキームで、医療法人を投資ファンドに譲渡。売主の先生は、理事職から退任することになりました。

このケースでは、M&Aによって、売主に以下の変化がありました。

  • 体調の急激な回復
  • 院長(管理者)として週3日勤務
  • 長期休暇を取得して家族5人で国内旅行へ
  • 新規医院の開設(譲渡医院から離れていることが条件)
  • 買手法人が新規分院展開をする際のサポート
  • 遠方にある新規分院へ出張

この先生は、体調が急激に回復したことから、譲渡後2年で首都圏に自身の医院を開設し、2期目で3億円近い売上を達成。

一方で、買手である投資ファンドの新規分院展開のディレクションも行い、4年間で5院以上の開院に携わりました。

自己資金を用いず、親会社の投資ファンドの潤沢な資金を用いることができたからこそ、この先生は積極的なアプローチができたようです。

売主の歯科医師の経営手腕が生かされた結果といえるでしょう。

成功の鍵

本事例の成功の鍵は、自身の健康を見据えたM&A決断のタイミングが大きいといえます。
法人としては成長途上であったものの、健康不安を抱えたまま、さらなる規模拡大を続けていれば、売主の体はどこかで限界を迎えていたかもしれません。
健康あってこその人生です。
M&A後は、病状も改善し、自身のスキルをいかして買手側の発展にも貢献しています。

売手側にも広がる新たなビジネスチャンス

今回の事例は、歯科医院M&Aが法人としての出口戦略にとどまらず、売主の第二の人生のスタートや新たなビジネスチャンスの創出につながる可能性を示しています。

健康不安をきっかけに始まったM&A。

結果として理事長の生活の質を向上と、さらなる事業拡大の原動力となった点は、歯科業界におけるM&Aの新たな可能性を証明したといえるでしょう。

40代だからこそ成功する!歯科医院M&Aと事業継承の理由とメリット

歯科医院のM&Aの成功事例の定義とは

今回は、従来の歯科医院のM&Aや事業継承とは全く異なる事例について、深堀してお話しいたします。

従来の歯科医院のM&A、事業継承とは

これまでの歯科医院におけるM&Aや事業継承というと、主に一人院長の引退に伴うものが一般的でした。

具体的には、高齢の医師が引退を目的に、小規模の診療所のユニットや機材などを数百万から1,000万円程度で譲渡し、新たに歯科医院を開業したい若手の医師に引き継ぐといった流れです。

しかし、近年増加しているようなユニットが10台を超えたり、従業員数が30名を超えたりするような、規模が大きい歯科医院は買手が見つからず、事業継承が難航するケースも少なくありませんでした。

医院の価値を高めるために規模を拡大してきたにも関わらず、それによって売却時に苦労するといったことも起きていたのです。

そのため、規模が大きい歯科医院の場合は、子供や親族に継いでもらうか、敢えて規模を縮小して自身で廃業するしか方法がないという状況もありました。

水谷 友春
■ 監修者

日本歯科医療投資株式会社 代表取締役歯科医師:水谷 友春

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この5年間でどのように変わっていったのか

買収側の変化

ここ5年間で、歯科医院のM&A市場は大きく変化しました。

特に買収側の変化が顕著で、以前は大規模な歯科医院に対して買手がつきにくかったのが、最近では投資ファンドや一般企業の参入によって、5億円、10億円といった高価格帯でも歯科医院の買収を希望する企業が増えています。

2018年に日系の投資ファンドが歯科医院を買収した際、当時は「上場ができない歯科医院を買収してどうするのか」と冷ややかな声もありました。

しかし、2023年に、このファンドから他の投資ファンドへの歯科医院グループの売却が成功したことによって金融業界からの注目が集まり、今では歯科医院の買収もM&A市場においてニーズが高い分野となりつつあります。

こうした動きの背景には、日本では調剤薬局の買収がピークを迎えており、次なる業界再編の候補として歯科業界に注目が集まっていることもあるようです。

薬局業界では、マツキヨやココナラの統合事例のように大きなケースもありますが、将来的に歯科業界でもそういった流れが起きると読んで、水面下で歯科医院の集約を進めている企業が増加しています。

また、米国では、大きな資本を持つ組織による歯科医院のチェーン化の流れが進んでおり、全米の8%の歯科医院がすでにチェーン化され、最も規模が大きいグループは全米で1800医院を運営するまでに拡大していることも、投資家の将来予想に影響しているようです。

売却側の変化

買収側だけでなく、売却側にも変化が見られます。

日本全国には歯科医院が67,000件ほどある中で、かつて年商1億円を超える医院は、そのうちの約5%とされていました。

しかし、今日では8%近くの医院が売上1億円を超えているとする調査もあり、一施設における売上が大きくなっているのがトレンドです。

スタディグループやウェブセミナーの普及によって、経営ノウハウが共有された結果、規模の拡大や分院展開の成功する歯科医院も増加してきました。

さらに、歯科医院を運営していく上で、ユニットや医師、従業員が多いほうが運営しやすいといった規模のメリットもあることから、医院の規模を大きくするという流れにシフトしてきています。

このように、売却前提でなかったとしても規模を大きくする歯科医院が増えたことで、結果的に近年の買手のニーズにも合致してきているという現状があります。

仲介会社の変化

このような動きの中で、歯科医院のM&A仲介に参入する仲介会社も増えていることが、ここ最近の状況です。

他方で、中には実績が少なく、歯科業界特有の知識がないまま営業活動をしている会社も少なくありません

実際、全国には約3,000社もの仲介会社があると言われていますが、半数以上はM&Aを成約させた経験がないとも言われています。

経験の浅い会社によるM&Aでは、適切な候補先の提案ができなかったり、売手の歯科医師が必要とするサポートを受けられなかったりということもあります。

したがって、より良い条件でのM&Aを成功させるためには、しっかりとした知識と経験があり、信頼できる仲介会社を見つけることが非常に重要です。

40代での歯科医院の売却事例

ここでは、40代で歯科医院を売却した歯科医師の事例をご紹介します。

売却前の該当歯科医院の状況を教えてもらえますか

売却された歯科医院は、関東に5院以上のクリニックを持ち、売上規模は10億円、従業員は100人以上という規模で、医院の経営状態も順調でした。

売却(譲渡)を検討した理由

売却主である40代前半の歯科医師は、10億円を売上目標に掲げて邁進してきたものの、目標を達成した際にさらなる拡大に対して疑問を抱き、心身の疲れを感じるようになりました

特に理事長として法人を運営することには大きな責任が伴うものです。

また、日頃から細かいことにも目が行き届く気質でもあったことから、ストレスが蓄積されていました。

そこで、医院を売却することで経営責任から距離を置き、歯科医師としてのキャリアを見直したいという思いで、売却を検討するようになったのです。

売却にいたった経緯

売却した医師はまだ40代前半という若さであること、さらに経営も順調であったことから、急がず自分に合ったパートナーを探し、歯科分野での実績を持つ日系の投資ファンドを選定しました。

この投資ファンドは、既に持っている歯科医院のマネジメントを更に向上させるため、優れたオペレーションシステムを持つ医院を買収したいという考えを持っており、無事にマッチングに成功しました。

その後6ヶ月間の準備期間を経てクロージングを行い、満足のいく成約に至りました。

歯科医院の経営が良好な状況でのM&Aについて

メリット

経営が好調な歯科医院は、高額での売却が可能です。

特に、従来から行われてきた歯科医院のM&Aは、引退間際の医師が行うイメージが強く、ネガティブな意味合いで語られがちでした。

しかし、絶好調のタイミングでの売却は、高い金額で売却できるだけでなく、好印象を与えられることもメリットです。

デメリット、気を付けないといけないポイント

40代での売却は、その後の人生やキャリアを考えることも大切です。

売却金額が億単位など高額であっても、その先の人生はまだまだ長いものです。

そのため、将来のライフプランや収支のバランスを考えたうえで、働き方を考えていく必要があります。

その後の院長や従業員の働き方が大事

経営責任から離れることで、歯科医師として臨床に専念できるほか、現場の従業員教育により深く関わるなど、医院の質を高める役割に携わっていける点もポイントです。

完全にリタイヤするのではなく、例えば2,000万円程度の収入で勤務医として働く方法もあるでしょう。

勤務時間や内容を絞ることで時間と心の余裕が生まれ、より満足度の高い人生につながるかもしれません。

若いうちに大きなキャッシュを得ることの意義

早い段階でまとまった資金を得ることは、その後のキャリアやライフプランに多くの選択肢をもたらします。

プロの投資家の観点では、早めに得る現金の方が、数年後に得る現金よりも価値が高いとする考え方もあります。

人生においても同じことが当てはまり、大きな資産を早期に得ることで、投資や新たな挑戦もしやすい点もメリットです。

極端な例ですが、90歳の人が10億円を持っているのと、40歳の人が5億円持っているのでは、後者の方が豊かな人生といえるのではないでしょうか?

また、手元の資金に余裕があることで将来に対する不安やストレスの軽減にもつながり、人生の余裕を高める要素のひとつにもなるでしょう。

経営状態が良い状況での歯科医院の売却についてのまとめ

歯科医院のM&Aは、高齢医師による引退に伴うイメージが強いですが、最近では若手の歯科医師が、業績好調な医院を好条件で売却されるケースが増えています

医院経営が苦しくなってからの売却では、そもそも買手がつかないことも多く、買手がついたとしても、譲渡金額や売却後の医院運営方針などにおいて、売手の歯科医師や従業員さんに有利な条件となることは難しい現実があります。

上記の観点で、経営が順調なうちに、引継ぎ期間を設定した上で、医院を売却することは、現在の医院に大きな変化を生じさせずに医院を継承できる場合が多く、売手の歯科医師、従業員さん、そして患者さんにとって、まさに三方良しといえるかもしれません。

実際にM&Aを実行されなくても、経営が順調なタイミングで、M&Aを検討されることは、新たな世界観に触れ、人生設計を考えるきっかけにもなるのではないでしょうか。

失敗事例から学ぶ!歯科医院におけるM&A仲介会社の選び方 

歯科医院のM&Aにおいて売却がうまくいかないケースとは

歯科医院のM&Aによる売却がうまくいかないケースには、主に3つの要因があります。

  • 売手側に問題があるケース
  • 買手側に問題があるケース
  • 仲介会社に問題があるケース

M&Aを成功させるためにも、それぞれにどのようなケースがあるのかを確認しましょう。

水谷 友春
■ 監修者

日本歯科医療投資株式会社 代表取締役歯科医師:水谷 友春

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売手側に問題があるケース

売手側に問題があるケースでは具体的に以下のケースが考えられます。

  • 医院の資料が揃っていないケース
  • 複数の仲介会社に依頼してしまったケース
  • M&Aの交渉中に医院の業績が大幅に悪化してしまったケース

①医院の資料が揃っていないケース

近年、活況を呈する歯科医院のM&Aにおいては、医院の売却価格が数千万から数億円になることも珍しくありません(弊社支援実績では10億円を超えた事例も多くあります)。

買手側は、知り合って間もない相手と大きな金額の取引をすることになるため、引き受ける医院を慎重に検討することになります。

そして、検討の過程で、買手側は売手に対して、対象の歯科医院に関する様々な情報を提供するように求めます。

売上に関するデータは決算書から読み取れますが、それだけでは判断できない情報も少なくありません。

患者数チェアの稼働率といったデータは勿論のこと、労働集約型の歯科医院では、勤務医や歯科衛生士のパフォーマンス採用に関するデータなど、人に関する質問が多い傾向です。

例えば、目下の歯科業界ではスタッフ採用の難しさが大きな課題となっています。
患者さんの数は多いけれど、勤務医や歯科衛生士を採用できていない、といった歯科医院も多いのではないでしょうか。

そのような状況下では、歯科医院を長く運営していく上で、患者数と同じかそれ以上に、スタッフを採用できる医院かが重要といえるでしょう。

採用力があるかの判断に際して、医院の求人に対する応募数や採用数、そして現在のスタッフの在籍年数も指標となりえますが、レセコンからは確認できません。
医院側で集計していないと出せない資料です。

しかし、売手側がこのようなデータを取得していない場合、買手側からすると「数千万から億単位の投資をして、これから長い期間医院を運営していくためには、判断材料が少なすぎる」と考える場合もあるでしょう。

結果、買収監査(デューディリジェンス)や条件交渉に入る前に、買手側からお断りとなる場合も少なくありません。

②複数の仲介会社に依頼してしまったケース

M&Aで医院を売却する際、同時に複数のM&A仲介会社に依頼することで問題が発生することもあります。

M&A仲介業者が競い合うことで、「より高額の提示をしてくれる買手が見つけられる」「仲介会社から手数料の減額オファーがされる」と考える売手の経営者もいらっしゃるかもしれません。

しかし、多くの場合において逆効果です。

歯科医院のM&Aが活況を見せているとはいえ、株式会社と比較した場合、歯科医院への投資を検討する買手の数は決して多くありません

歯科医院の特殊性(歯科医師を頂点とするヒエラルキーや医療法人特有の法律上の制限等)が原因と言えます。

具体的には、売上が同規模と仮定した場合、IT企業であれば買手として100社の候補先がリストアップされることもあります。一方、歯科医院の場合、ほとんどのケースで5社前後、超優良な歯科医院でも10社前後です。

複数の仲介会社を利用したとしても、提案される候補先はその限られた買手となります。異なる仲介業者から同じ情報が渡ってしまうと、買手に「出回り案件」という印象を与えかねません。

結果、買手としては1円でも安く買いたいという意向が働き、1円でも高く医院を売却したい売手の希望が叶いにくくなります。

弊社代表の水谷は2019年より投資ファンド傘下において、買手として歯科医院への投資を経験してきましたが、その中で買手企業内の会議で聞いた会話を紹介しましょう。

同一医院の情報が複数仲介会社から持ち込まれると、社内会議の場において、「よほど売り急いでいる先生なのかな」「いろんな仲介会社さんが持ってきてくれているけど、どこが一番安く買えるように交渉してくれるかな」などの話が、買手側から出ていたとのことでした。

つまり、高く売ろうとして複数の仲介会社に依頼した結果、売却価格を下げてしまうことになりかねないということです。
仲介会社自身の熱意も低下するため、売手にとっては逆効果になってしまいます。

また、安易に複数の仲介会社に依頼することで、貴重な買手候補を減らす事態になるかもしれません。

買手側も仲介会社とアドバイザリー契約を締結することが一般的です。
一度アドバイザリー契約を締結すると、買手側は契約を結んだ仲介会社以外からの提案を受けられなくなります。

例えば、ある買手がX歯科医院について、仲介会社Aとアドバイザリー契約を締結したとします。
後日、売手の先生が仲介会社Aに不満を抱き、仲介会社Bに一本化したいと思っても、買手はX歯科医院について仲介会社Bを通せない状態になってしまうのです。

③ M&Aの交渉中に医院の業績が大幅に悪化してしまったケース

不可抗力でもありますが、M&A交渉中に医院の業績が大きく悪化するのは決して少なくないケースです。

M&Aにおいては、医院売上を筆頭に、過去の実績値を基準に交渉が行われるものです。
交渉の最中に、複数の勤務医の退職が発生した場合、売上の大幅な下落が予想され、どうしても過去の実績値では判断できなります。

買手としては、ドクターの離職に伴う減収見込みから、譲渡金額を下方修正せざるを得ず、売手が当初想定していた譲渡金額には届かないでしょう。

金額の調整で済めばまだ良い方で、そもそも、勤務医が少ない医院は検討対象から外れる場合もあります。

このようなケースを防ぐためにも、医院の安定期にM&Aを検討されることは非常に意味があると弊社は考えています。

買手側に問題があるケース

買手側に問題があるケースでは具体的に以下のケースが考えられます。

  • 情報収集目的で、そもそも買収の意思がないケース
  • 提示条件を急に撤回するケース

① 情報収集目的で、そもそも買収の意思がないケース

M&Aのプロセスには、売手側・買手側の双方に相当な労力がかかるものです。

始めはスムーズに交渉が進んでいても、不可抗力で合意に至らず、売買が成立しない(ブレイクする)場合もあり、売手・買手共にこれまで費やした労力を前に、落胆することになるでしょう。

さらに、もしその労力が本気で検討していない相手との交渉に費やしたものであれば、それほど無駄なものはありません。

残念ながら、M&Aにおいて、買収の意思が無くても、ライバル企業や関心のある企業の情報を収集するためだけに、関心があるように装い、対象医院の資料開示請求や質問をする企業がいることも事実です。

初めてM&Aに挑戦する売主、特に良心ある歯科医師の先生に、買収の意思のない企業を見抜けというのは、かなり難しい話でしょう。

本気にM&Aを検討する企業かどうか見抜けなかった場合、当然に買手側の責任ではありますが、M&Aのプロたる仲介会社にも責任があると弊社は考えています。

② 提示条件を急に撤回するケース

M&Aに限らず、一定数の企業には、現場レベルではほぼ決定権がなく、トップの意向が絶対という企業が存在します。
特に、オーナー企業やワンマン経営の企業場合は、その傾向が顕著です。

担当者と最終意思決定権者の間で意思疎通が取れていないと、最終的に取引自体が取り下げになってしまうこともあります。

実際に弊社でもそのような事例がありました。
ある歯科医院様の案件で、当初から売主の先生の希望条件に満額回答される買手企業さんがいらっしゃいました。

非常にオーナー色が強い企業さんであったことに加え、あまりにもスムーズな満額回答でした。
売主の先生には、「要注意」である旨をお伝えし、買手企業担当者に確実性を確認したところ、「最終決定は代表一人で行う」とのことをヒアリング。

最終的には、その企業から当該M&Aの基本条件を記載した意向表明書が提出された後であるにもかかわらず、「代表が『なんか違う気がする』と言っているので」と電話一本で、交渉は一方的に打ち切られました。

弊社が事前に兆候を察知していたため、他の買手様に速やかに案内することができ、その歯科医院は大きな時間的ロスなしにM&Aを成功させることができました。
もしその企業一本に絞って交渉を進めていたなら、大きなロスになったでしょう。

そのため、売手側は、買手側の最終決定権者や判断基準、投資決定のタイミングを事前に把握しておくことが重要です。
もちろん、売主の歯科医師に求めることは極めて難しいので、仲介会社が責任をもって行うべき事柄だと弊社は考えています。

仲介会社に問題があるケース

仲介会社に問題があるケースでは、具体的に以下のケースが考えられます。

  • M&Aの知識や経験が不足しているケース
  • 歯科医院M&Aの取り扱い経験が不足しているケース
  • 歯科医院の買手を知らないケース
  • ファンドとの交渉ができないケース

① M&Aの知識や経験が不足しているケース

近年のM&Aブームを背景に、M&A仲介会社は急増し、現在、日本国内には3,000社を超えるM&A仲介会社が存在すると言われています。

しかし、そのうち6~8割の企業は会社として未成約(一件もM&Aを成約させていない)という調査もあることから、会社としてM&Aの知識や経験がないまま仲介業務を行っているともいえます。

歯科業界に例えると、インプラントを標榜する歯科医院の6~8割がインプラントを一本も埋入したことがない医院といったところでしょうか。

これは非常に怖い数値ではないかと思います。

② 歯科医院M&Aの取り扱い経験が不足しているケース

株式会社のM&Aを取り扱ったことがあっても、歯科医院M&Aの経験がある仲介会社は多くないことが実情です。
ましてや歯科医療や業界に関する知見がある仲介会社は、残念ながら、ほとんどないでしょう。

歯科医院は形態と運営において一般企業とは大きく異なるため、専門的な知識がないと、スキームの構築ができませんし、医院の特徴や魅力を見極め、買手に正しく伝えることができません。

スキームが不十分では、売手の歯科医師に課される税率が高くなってしまうことや、現場のスタッフに混乱を与える可能性が極めて高くなります。

また、医院の特徴を正しく伝えられていない場合、買手に関心を持ってもらうことができませんし、より良い条件を引き出すことも当然ながら不可能です。

③ 歯科医院の買手を知らないケース

弊社ではお相手探しを本格的に行うアドバイザリー契約とは別に、将来のM&Aに関するコンサルティングや、別の仲介会社で進行中のM&Aに対するセカンドオピニオン業務を行っています。

前述の通り、M&A仲介会社が急増する中で、弊社にもセカンドオピニオンの依頼が増加してきております。

そのような中で多いのが、「『ここしか買ってくれない』と言われ1社しか買手を紹介されていないが、本当にそうでしょうか?」といった内容です。

先に述べた通り、絶対数としては多くないものの、歯科医院のM&Aが活況を呈する中で、買手が1社しかいないということはあり得ません。

複数社を紹介された後に、結果的に本格検討することになったのは1社のみという話ならありえますが、その先生は、そもそも1社しか提示されていないということでした。

M&Aにおいて、1対1の交渉の場合、力学的に買手が優位になることが多く、「他に買手がいないでしょ?安いならウチが買ってもいいですよ」といった買手の姿勢を招きかねません。

実際にその先生が提示されていた売却金額は、同規模の医院の弊社仲介事例の半額の評価額でした。

売却金額のみならず、売却後の自身の働き方や、スタッフや患者さんのために好条件のM&Aを叶えるためには、複数の買手候補との交渉を行うことが必須です。

そのためには、歯科医院の買手を多く知っている仲介会社、さらに言えば、買手候補が譲受した歯科医院をどのように運営しているか、歯科業界にどのような展望を持っているかを把握している仲介業者であることが好ましいでしょう。

④ ファンドとの交渉ができないケース

こちらは前述の①~③を合わせたようなケースではありますが、投資ファンドとの交渉ができない仲介会社では、好条件での歯科医院M&Aを叶えることは困難と考えられます。

なぜなら、歯科医院に限らず一定以上の金額での法人売却を考える際、投資ファンドの存在を避けて通ることはできないからです。

弊社では、大型の歯科医院のM&Aを支援させて頂くことも多く、譲渡価格が10億円を超えるケースも決して珍しくはありません

そのようなケースでは、買手として個人の歯科医師や、歯科の医療法人から手が上がことはほとんどなく、潤沢な資金を持つ投資ファンドや一部の事業会社が候補になる場合がほとんどです。

しかしながら、歯科医院の売買を専門に扱われる業者さんには、本業は歯科ディーラーや開業支援会社、医院用テナントを扱う不動産会社であったりする場合も多く、必ずしもM&Aを専門とされているというわけではないようです。

そのような業者のケースでは、「地元に根差してこれから開業したい」という若手歯科医師の情報は有していても、東京を拠点に百億円単位の資金を運用する投資ファンドとのコネクションがある会社さんは多くないように思います。

また、M&Aのプロである投資ファンド相手に交渉を重ねることは、非常にタフな仕事となり、通常のお相手探しだけではないスキルが必要とされます。

好条件(高額)での売却を考える際には、筆頭候補ともなりうる投資ファンドとのコネクションや交渉スキルについて、よく確認する必要があるでしょう。

仲介会社を選ぶ際に気を付けるポイント

ここまで述べてきたように、歯科医院のM&Aを成功させるためには、カギとなるのは、間違いなくM&A仲介会社選びです。

依頼する会社によって、譲渡価格が大幅に変わったり、M&A成約までの期間が長期化したりするだけでなく、そもそもM&Aの成否自体が左右されるリスクもあります。

ここからは、M&A仲介会社を選ぶ際に注意すべきポイントについて解説します。

仲介会社自体について気を付けるポイント

M&A仲介業者を選ぶ際には、歯科医院のM&Aに関する知識や経験を持ち、ノウハウが蓄積されているかが重要です。

実績が豊富であれば、買手候補に関する情報を多く持っており、売手に多くの選択肢を提案できます。

目安としては、5社以上の候補を提示できる仲介会社が望ましく、1~2社の場合は要注意です。

また、担当者に対する会社のサポート体制が整っているかもポイントです。

特に、大手の仲介会社ではM&A仲介業務を未経験の新人が担当になる可能性があります。

全ての業種において誰にでもある新人時代ですが、M&A仲介業界では大手でも個人プレー色が強い会社もあり、上司からのフォローが不十分な場合も存在します。

売主としては、人生に一度の決断となることが多いM&Aにおいて、失敗は絶対に避けたいもの。

そのため、「規模が大きい会社だから」といって安易に依頼するのではなく担当者の経験や会社としてのサポート体制を見極めることが大切です。

担当者について気を付けるポイント

M&Aアドバイザーは属人性が高い職業のため、会社だけでなく担当者の対応力や信頼性をより重視すべきです。

例えるならば、矯正専門医院を標榜していても、学会の専門医資格を持つ院長が担当するのか、研修医上がりの若手ドクターが担当するかで、大きな違いがあるでしょう。

つまり、担当者が歯科医院のM&Aを取り扱った経験があるか、歯科医院や業界について、どれだけ精通しているかは重要なポイントです。

また、過去に歯科医院のM&Aを仲介した実績があっても、売買双方がその後の経過に満足していないケースもあります。

具体的には、売手が「事前に説明を受けていなかった内容でM&A後に不利益を被った」と感じていたり、買手が「買収した後の医院運営方針について、イメージがちゃんと伝わっていなかった。その結果、医院運営がスムーズにできていない」と感じたりする場合です。

このようなケースを見抜くためには、担当者が歯科医院のM&A成立後、買手企業とのお取引が続いているかは勿論、売手の歯科医師とプライベートの付き合いがあるかを知ることも、担当者を判断する材料になるでしょう。

売手にとっては一生に一度の売却であることが多いため、M&Aに満足してもらえれば、感謝の気持ちからその後一生に渡って、プライベートで良好な関係が続くことも多くあります。

実際に弊社代表水谷が支援させて頂いた事例では、2018年以降、全ての売主の先生と定期的にプライベートでもお付き合い頂いております。

このように、担当者の経歴や人柄、売却経験者の先生との関係性を確認することも大切なポイントです。

株式会社と歯科医院との違い

歯科医院では院長の人柄に患者さんやスタッフがついていることが多く、一般的な株式会社の社長よりも院長の果たす役割が大きい傾向にあります。

そのため、歯科医院のM&Aの際は、売却後も数年は院長に継続して勤務してほしいという買手からの要望が多いのが特徴です。

売却後に院長が勤務医として残る場合、買手と元院長が対等なパートナーとして協力し合うことでお互いの満足度が高まり、歯科医院の発展にもつながります。

また、買手側が経営業務を担い、売手側は歯科診療のプロとして、それぞれの得意分野に専念することで、医院のさらなる成長が期待できます。

このように、株式会社と異なり、歯科医院のM&Aにおいては売却後の売主の勤務条件や、買手との関係性構築が特に重要な要素となるのです。

実際にあった歯科医院売却の失敗事例について

ここからは、実際にあった歯科医院売却での失敗事例を3つご紹介します。

ケース1: 多くのM&A仲介会社に依頼しすぎたケース

初めに、売上規模が約5億円と比較的大きく、財務体質もしっかりしていた歯科医院をご紹介します。
こちらの歯科医院は、5社もの仲介会社に依頼をした結果、売却に動き始めてから5年たっても、当面のM&Aが期待できない状況です。

5年以上前から5社以上の仲介会社に依頼されていた先生から、弊社に一本化したいとご相談を頂いたものの、有力な弊社クライアントの買手様は全て、以前の仲介会社様との契約に縛られ、弊社からは提案できませんでした。

以前に依頼された仲介会社の担当者は既に退職され、会社としてもコンタクトはない状態。
結果として、売主の先生は当面の売却をあきらめざるを得ないことになりました。

年商5億円規模の会社で、ITなどのM&Aで人気の業種であれば、100近くの買手候補がリストアップされても不思議ではありません。
しかし、歯科医院の場合、引き受けを希望する会社は平均で5~10社程度です。

そのため、歯科医院のM&Aのケースでは、複数の仲介業者に依頼すると、同じ歯科医院の情報が限られた買手に何度も提供されてしまいます。

同じ歯科医院の情報を違う仲介会社から聞かされると、購入側は「何かしらの事情があって、売却を急いでいるのではないか」という印象を持ってしまいます。

結果として、買手から仲介会社に対しては「安い金額なら購入を検討する」といった条件でのオファーが多くなり、買手からの提案価格が下がっていまいました。

さらに、情報が出回りすぎたことで買手の関心も薄れ、塩漬け状態となったのです。

このケースからわかるように、仲介会社に複数依頼する際のデメリットを理解し、契約内容をしっかり確認した上で慎重に進めることが大切です。

ケース2: 資料が不十分で買手が撤退したケース

次にご紹介するのは、売却を検討中だった歯科医院の資料が不十分で、買手が撤退してしまったケースです。

こちらの歯科医院は複数のクリニックを運営しており、数億円の売上規模ではありましたが、クリニックごとに規則や給与体系が異なっていました
というより明文化された規則が存在しませんでした

決算書は1つの医療法人として作成されるものの、基本給や昇給が理事長一人の判断で決められており、基準が曖昧だったり、クリニックやスタッフごとの通勤方法も、理事長の裁量で決められたりしていた状況です。

例えば、あるスタッフは車通勤が許可されている一方で、別のスタッフは電車通勤のみといったものでした。

このように、規則が不明瞭かつ資料が不足していたことや、是正しないといけないことが多いと予想されたことで、買手は引き受け後の運営に対して不安を感じ、M&Aの検討を中止しました。

特に、投資ファンドなどのように、第三者の投資家の資金を預かって運用している買手にとっては、投資先に関する明確な情報や透明性が求められます。

そのため、資料が十分に整っていない場合や、医院運営にかかわるルールが不明瞭な状態でのM&Aでの引き受けは、社内や投資家に対する説明不足につながるため、大きなリスクとなります。

売却前に医院の規則を整理し、必要な資料をまとめておくことが、M&Aをスムーズに進めるために必要です。

スムーズにM&Aを進めるために歯科医院側が準備すべきことについて、きちんと理解していて、事前準備から伴走してもらえる仲介会社を選ぶことが大切でしょう。

ケース3: 歯科医院の知見がない仲介会社に依頼したケース

最後に、売却を希望していた歯科医師が、歯科業界や歯科医院に関する知見が乏しいM&A仲介会社に依頼してしまったケースをご紹介します。

歯科医院には他業界と異なる特有の運営方法があるため、M&Aのスキームも異なります。

スキームによっては、医院の管理者が交代せざるを得ない場合があるなど、医院運営に与える影響が出てしまう場合もあります。

また、過去の取引相場や業界の動向を把握していないと、買手に対象の歯科医院の適正価格を提案することができません。

このケースでは、仲介会社が規模感に応じた歯科医院の相場を知らなかったため、また、医院の持つ魅力を買手に対して十分に説明できなかったため、結果として相場よりも低い価格で売却のプロセスが進んでしまいました。

歯科治療に例えるならば、一度もフラップを開けたことがない歯科医師に、歯周外科処置を頼むようなことは避けた方が賢明といったところでしょうか。

こうした失敗を避けるためには、歯科医院の知見や歯科業界におけるM&Aの経験が豊富な仲介会社かを確認し、適切なアドバイスを受けることが重要です。

あらためて歯科医院のM&Aに失敗しないためには

歯科医院のM&Aを失敗しないためには仲介会社選びが非常に大切であるため、実績がある仲介会社を選びましょう。

歯科医院に関する情報を把握していることはもちろんのこと、買手の過去の買収条件や買手の資金状況ついて熟知しており、しっかり説明をしてくれる仲介業者であることを確認してください。

また、過去に仲介した歯科医院のM&Aの件数だけでなく、成約過程やその後の運営に売手・買手が満足しているかも確認すべきです。

売手・買手の当事者が売買に納得していない場合、仲介会社との関係性が良好に保たれていない場合も多くあります。

買手・売手との成約後の関係性をチェックすることも判断材料になるでしょう。

近年はM&A仲介を行う業者の増加とともに、質に幅が生まれているのが現状です。

一般的に仲介会社はリピーターになりうる買手側の立場に寄りがちと言われることもあります。

そういった事態を防ぐためにも、M&Aに関する経験が豊富なことは勿論、その上で、「M&Aによって歯科医師を豊かにしたい」だったり、「歯科業界をより良くしたい」という意思や熱意のあるM&A仲介会社を選ぶことが、歯科医院のM&Aを成功に導くカギかもしれません。

歯科医院M&A(売却)入門

歯科医院の
M&Aマーケット

歯科医師の承継対策についての
現状意識

歯科医師の後継者不在率は90 %超(※1)とする調査もあるなど、全業種屈指の高さですが、歯科医師の多くは承継対策案を持たない現実(※ 2 )があります。

継承への問題意識

承継の対策

身近な承継事例

  • ※ 1 出所:帝国データバンク「全国企業『後継者不在率』動向調査」(2020 年)
  • ※ 2 出所:「姻科医院の承継にかかるアンケート集計結果」(2019 年11 月、大阪大学歯学部同窓会l歴史資料館・広報活動第124 号)

歯科医院のM&Aの現状

事業会社•投資会社においては空前のM&A ブームともいえる状況。

  • 既存事業拡大や新規事業参入にM&A を活用する企業が増加。
  • 収益性の高さや安定感、業界再編の可能性から、歯科医院に注目する企業も増加している。

歯科医院M&Aの特徴

歯科医院のM&A においては、売手買手の双方に下記のメリット/デメリットが挙げられます。

売手側

メリット

  1. 医院を存続させることができる
  2. 地域や患者さんに迷惑をかけない
  3. 従業員の雇用が守られる
  4. 売却益を獲得できる
  5. 売却益は低税率で個人所得となる
  6. 相続対策を兼ねることができる
  7. 経営のストレスから解放される
  8. 新しい働き方を獲得できる
  9. 自院をさらに発展させることができる

デメリット

  1. お相手探しや交渉に専門知識が必要
  2. 一定の引継ぎ期間が必要
  3. お相手との相性はすぐには分からない
  4. 全ての医院が譲渡できるわけではない

買手側

メリット

  1. 既に実績のある医院を取得できる
  2. 医院展開のスピードを上げることができる
  3. 対象医院のノウハウを獲得できる
  4. 人材を一気に獲得できる
  5. 有能な幹部クラススタッフを獲得できる
  6. 診療内容によっては、お互いをの弱みを補える
  7. 遠隔地に拠点を持つことができる
  8. 新規事業として歯科医院を始められる

デメリット

  1. お相手探しや交渉に専門知識が必要
  2. お相手に選ばれる必要がある
  3. お相手との相性はすぐには分からない
  4. 新規開業とは異なる運営ノウハウが必要

歯科医院のM&Aでは、お相手探しや交渉、M&A後の医院運営に専門知識や新規開業とは異なるノウハウが必要とされます。多くの歯科医師に知見が不足している分野であり、ハードルが高く感じられますが、上記の通り、売手・買手ともに、歯科医院のM&A によるメリットは、デメリットを大きく上回ります。

M&Aしやすい歯科医院

M&Aを成功させるためには医院側の条件とタイミングの2 つの要素が重要です。

譲渡しやすい歯科医院

  1. 医院に規模感がある
  2. 各種マニュアルが整備されている
  3. 経営数値が可視化されている
  4. 法令順守の医院運営がされている
  5. 好立地に位置している
  6. 出資持分あ.り法人 or MS法人がある

一般論として、個人に依存した運営をされている歯科医院に関心を示す候補先は多くありません。
また、譲渡側としては、自院に関心を示す 候補先が多いほど、M&Aの成功確率は高くなるため、「属人性が低く、持続可能な医院」を構築しておくことが、重要といえます。

譲渡しやすいタイミング

  1. 売上が増加傾向 or 安定している
  2. M&A後も院長の継続勤務が可能
  3. 院長の年齢が若い
  4. 法人の非事業用資産が調整されている
  5. M&Aの市況を捉えている

M&A という言葉の響きから、「経営不振の医 院が身売りする」 というイメージを持たれる 方もいらっしゃいますが、直近のトレンドは「業績好調な歯科医院の高額売却」という、大変、名誉な意味合いを持ってきています。
高額での売却を叶えるためには、院長と法人の最高の状態を捉えることが重要といえます。

どのような医院でも譲渡できるわけではなく、医院が整備されていて、
タイミングを捉えることがM&A の成功には重要です。
一般論として「M&A は、惜しいと思う時が売り時」などとよくいわれます。

歯科医院の価格
(企業価値評価)

歯科医院の価格(企業価値)の内訳は「事業価値」と「非事業価値」からなります。

歯科医院の価格(企業価値)
事業価値 事業継続を前提として
将来にわたって企業が稼ぎ出すカ
非事業価値 事業活動に必要ない資産

余剰資金・有価証券•生命保険・オーナー使用社用車・社宅等

事業価値とは

歯科医院のような労働集約型のビジネスでは利益をベースに算出されることが一般的です。利益にも様々な指標があるが、M&Aでは「EBITDA 」と呼ばれる指標に基づく「EBITDAマルチプル法」が採用されることが多くあります。

EBITDAマルチプル法

EBITDA とは

営業利益に減価償却費とオーナー使用経費を足し戻したものが「EBITDA 」。
節税や借入に関係ない、正常収益力(その医院が稼いでくる力)を表したものです。

歯科医院M&Aの
スキーム

スキームにおける重要ポイント

歯科医院M&Aのスキームにおいては、経営権の移譲と譲渡対価の支払い方法の2 点が重要になります。特に、譲渡対価の支払い方法は、医療法人の出資持分の有無やMS 法人の有無によって変わる(=譲渡側の所得税率が変わる)ため、非常に重要な部分といえます。

経営権の移譲方法
1 社員総会と理事会の地位の譲渡
譲渡対価の支払い方法
1 出資持分 (株式譲渡に係る譲渡所得等)
2 退職金 (退職所得)
3 建物・機材 (譲渡所得・雑所得)
4 MS 法人株式 (株式譲渡に係る譲渡所得等)

買収額支払方法一覧

※スライドして閲覧ください

支払方法 想定税率 売主側のメリット 売主側のデメリット
出資持ち分譲渡
(出資持分あり医療法人のみ)
20.315% 想定される最低税率 特になし
退職金支給
(医療法人から)
約25~28% 役員報酬よりは低い税率 後任の理事長と管理者を採用する必要あり
税務当局との見解の相違に注意が必要
MS法人の株式譲渡 20.315% 想定される最低税率
相続対策になる可能性
特になし
退職金支給
(MS法人から)
約25% 役員報酬よりは低い税率 特になし

経営権と対価支払いの観点から医療法人のM&Aに際して、売手側に想定される組み合わせは下記の通り。

※スライドして閲覧ください

個人事業主 出資持分なし医療法人 出資持分あり医療法人
MS法人無し 経営権・・・×
対価支払い・・・×
経営権・・・
対価支払い・・・
経営権・・・
対価支払い・・・
MS法人あり 経営権・・・×
対価支払い・・・
経営権・・・
対価支払い・・・
経営権・・・
対価支払い・・・

歯科医院のM&A に際しては、出資持分あり医療法人がベストですが、2007 年の医療法改正に伴い、現在では設立できません。経営権のスムーズな移譲と、低税率での譲渡益獲得のためには、これから目指せるのは「出資持分なし医療法人XMS 法人あり」のパターンです。

M&A後の働き方

譲渡後の先生のライフスタイルとして、海外移住や完全引退をイメージされる方もいらっしゃいますが、歯科医院を引き継ぐ側からしたら、M&A後すぐに、譲渡した先生がリタイアしてしまうと、どうなるでしょうか?引継ぎ直後から、買手のみでスムーズに医院運営をすることは難しく、従業員や患者さんに影響を与えてしまう可能性もあります。また、譲渡する側の先生にとっても、「すぐに仕事を完全引退したい」というニーズは少ないようです。

勤務日数や経営責任を調整の上、
譲渡した医院で診療を行う

譲渡を検討される先生方から「経営や人のマネジメントには疲れたが、臨床は好きだ。」という言葉を聞くことは少なくありません。M&Aによって、従業員のマネジメント等は買手に移管し、自身は診療に専念するというスタイルも多く見受けられ、その多くの先生から「以前よりも臨床を楽しんでできるようになった。」という声も聞かれます。

前面に立ち、さらなる規模拡大の陣頭指揮を執る

診療は勿論、医院経営にも積極的に取り組まれてきた先生の中には、規模の拡大にやりがいを感じる先生も多くいらっしゃいます。そういった先生の中には、自身の医院を資本力のある企業に譲渡した上で、買手の資本を用いて、医院の規模拡大や新規出店、さらに買手法人の医院運営の指揮を執る精力的なスタイルも見受けられるようになってきました。「プロ経営者」としての歯科医師の新しい働き方といえるかもしれません。

譲渡後、全ての仕事から完全引退

健康問題やご年齢などの事情から、譲渡後に速やかに全ての仕事から引退を希望される先生もいらっしゃいます。そういった先生が、医院で何の役割も果たしていない場合は、譲渡医院への影響が少ない可能性もありますが、現実にはそういったケースは多くありません。売主がすぐに不在になる場合は、医院の業績も今まで同様で評価することが難しく、売主が引継ぎ勤務ができない案件は検討しない、もしくは非常に安価な価格提示という買手がほとんどです。

譲渡後も、医院を譲渡した売主の先生が引き続き医院に関与することは、買手側は勿論、従業員や患者さんにとっても安心感が大きいものです。最近では、勤務日数や役割を調整した上で、「歯科医師としては生涯現役」を叶える手段として、M&Aを選ぶ先生も増えてきています。他方で、M&Aを実行したからには、新しい働き方を模索されるのも当然のことです。売買双方の希望をすり合わせた上で、ご自身のペース・スタイル・待遇で、譲渡した医院に関与を続ける先生が多いのが今日の歯科医院M&Aの現状といえるでしょう。

よくあるご質問

医院を売却したらすぐに引退できるの?

院長がすぐにいなくなると、医院運営が難しい場合がほとんど。お相手にもよるものの、売却後2~3年の引継ぎ勤務が一般的です。

スタッフはどうなるの?

M&A 成立後、数年間は、給与削減や勤務時間増加などの不利益変更しない旨の確約がなされる場合がほとんどです。また、弊社支援の事例において、M&A を発端とした従業員様の解雇や離職は一件も発生しておりません。

自分で退職金を払う場合とどう違うの?

退職金を受け取るためには、理事長/理事を退職する必要があります。すなわち、医院の管理者に留まることもできないため、後任の管理者兼理事長を採用しなくてはなりません。また、退職金を税務上否認されないためには、勤務日数を半減等させる必要もあります。所得税率の観点では、退職金の約25~28%に対して、より低率の20.315%を目指せる可能性があります。

「ご指名で資本提携希望」の手紙が来る背景は?

一般社団法人M&A仲介協会において自主規制・禁止された真偽の疑わしい営業手法です。ごく稀に、買手から提供されたリストに基づき、ダイレクトメールを発送する場合もありますが、仲介会社の定型文の虚偽である場合がほとんどです。

売却後も、引き続き働くことはできるの?

誰よりも医院のことを理解されている売主の先生。売主が希望する場合、経営責任を負わない形で、中長期的に勤務することも可能な場合がほとんどです。

どれくらい前から準備すればいいの?

売却後即引退は現実的に困難なため、引退目標の2~3年前の売却が一般的です。また、M&A のプロセスは6か月から1年ほどかかり、医院様によっては前準備が必要な場合もあるため、引退目標の5年前からのご準備を弊社では推奨しています。

節税をしているけど、大丈夫?

M&Aにおいては「EBITDA」という利益の指標を用 いることが一般的です。顧問税理士様へのヒアリング等に基づき、アドバイザーやお相手が算出するものですが、M&A後に不要となる売主の私的経費や節税のための費用は足し戻し処理を行うため、価格算出に不利になることはありません。

仲介会社は専任と非専任、どちらがいいの?

非専任で、複数仲介業者と契約し、売却価格の増加・手数料の減額を企図される経営者もおられますが、複数仲介業者から持ち込まれる出回り案件となり、買手候補企業の強気の交渉を招く場合が多くあります。弊社に限らずとも、仲介会社とは専任での契約を強くお勧めします。

弊社サービスのご案内

①歯科医院のM&A仲介サービス

売手様・買手様のマッチングを筆頭にM&Aを仲介するサービスです。
売買双方と仲介契約(アドバイザリー契約)を締結した上で、M&Aの成立まで、資料作成・スキーム立案·マッチング・交渉・助言を行います。
歯科医院のM&A は株式会社とは異なるスキームが必要とされることや、歯科業界に特殊性が存在すること、公開事例も少ないことから、一般的なM&A仲介会社でも知見を持つ会社は多くありません。
弊社は投資ファンド傘下において、歯科医院M&Aに7年間の経験を有する代表水谷のノウハウを全メンバーに共有。歯科業界と金融業界双方に知見をもつメンバーが、M&Aのプロセスを確実かつ丁寧に進めてまいります。
金額面で売買双方にご納得頂けることは勿論、M&A後の売主様ライフプランや買手企業様の事業計画も見据えたご提案を通じて、歯科医師が経営する歯科医院に特化した仲介会社という唯一無二の弊社ミッション「歯科医師の人生に寄り添う」を実現してまいります。

②歯科医院の売却準備サポート

今すぐではないものの、将来的な歯科医院の譲渡に向けて、先生方のご準備をサポートするサービス です。歯科医師人生の引退や、経済的な自由を手に入れる高額譲渡の際に選択肢の一つとなるM&A。とはいえ、弊社が年間約100件の譲渡希望のお問い合わせを頂く中で、実際にM&A が可能な 医院数は極めて少ないことも現状です。譲渡可能な医院づくりに向けて「何から手を付けていいのか分からない」という先生方のお声にお応えして、日常の診療で意識することの少ない財務・法務・労務をはじめとした、各種要素の整備をサポート致します。

③歯科医院の買収サポート

歯科医院の買収に関心がある方に対して、案件獲得方法・歯科医院買収実務・買収後の運営のサポートを行うサービスです。
M&Aによる医院の買収に関心があっても、多くの企業様・医療法人様にとっては持ち込まれる案件も少なく、買収未経験であったり、案件の見方が分からない場合も多いと思われます。買収実績がない企業様には優良案件が紹介される可能性は低く、まずは買収実績をつくることが重要であり、「最初の一件の買収実績づくり」をサポート致します。

代表挨拶

著者
日本歯科医療投資株式会社
代表取締役歯科医師

水谷友春

Tomoharu Mizutani

日本の中小企業における後継者不在率の高さが社会問題化する今日、その解決策としてM&Aが広く認知されてきております。2022年に、日本企業が関与したM&Aの件数は過去最多を記録しており、もはや今日の経済を語るうえで、M&Aは避けては通れない経済活動の一つとなっています。

歯科業界においても、歯科医師の平均年齢は高齢化の一途を辿っており、歯科医院の後継者不在率が90%を超えるとする調査もあるなど、後継者不在の問題は年々高まる一方です。そのような状況下で、近年では歯科医院においてもM&Aが事業承継の選択肢の一つとして広く注目されてきています。

他方で、歯科医院のM&Aにおいては、株式会社と比較して特殊なノウハウが必要とされる一方、公開されている事例も少なく、専門家も少ないことから、M&Aという選択肢の検討に至らない先生方が多い現状も事実です。

私が歯科のみならず、数々のM&Aの現場に携わる中で感じたのは、魅力的な業界においては、異業種からの新規参入も含めた、活発な投資が行われるということです。新たなプレイヤーと資金を得た業界はより活性化し、業界で働く人たちの待遇も向上、優秀な人材が集まり、結果的に業界全体が進歩していきます。

「コンビニより多い歯科医院」などの言葉がメディアに登場するようになって以来、日本社会が歯科業界に持つイメージが低下しているように感じられてなりません。こういったイメージを変えるためにも、歯科医院のM&Aの普及を通じて、歯科医師の生涯収入を最大化し、歯科医師という職業の魅力度向上と、持続可能な地域医療の実現に寄与したい。

これが、自らも歯科医師であり、歯科医師家系の三代目に生まれた私のミッションです。

本書が、読者の皆様の歯科医院M&Aへの理解の一助となりましたら、幸いです。

水谷 友春

略歴
1990年 兵庫県神戸市生まれ
2008年 愛光高等学校卒業
2017年 東京歯科大学卒業・歯科医師国家試験合格
2018年 臨床研修修了
株式会社fundbook 勤務
2019年 株式会社メディカルサポート勤務
(ジャフコグループ株式会社投資先)
医療法人スワン会勤務
2020年 株式会社メディカルサポート事業投資部長就任
2023年 日本歯科医療投資株式会社代表取締役就任
2024年 水谷歯科医院副院長就任
主な支援実績
年商4億円超 首都圏歯科医療法人法人譲渡(出資持分なし)
年商12億円超 北陸地方歯科医療法人法人譲渡(出資持分あり)
年商3 億円超 近畿地方歯科医療法人の分院事業譲渡
年商22 億円超 中部地方歯科医療法人法人譲渡(出資持分あり)
年商13億円超 首都圏歯科医療法人法人譲渡(出資持分なし)
年商7億円超 近畿地方歯科医療法人法人譲渡(出資持分あり)

歯科医院の事業承継を徹底解説!費用相場や成功事例もご紹介

近年、歯科医院の事業承継が進化し、新たなフェーズに突入しているのをご存じでしょうか?
事実、投資ファンドの参入によってM&Aが活発化し、これまで難しかった大規模歯科医院の事業承継が可能になり、億単位の成功事例も少なくありません。
とはいえ、歯科医院の事業承継(M&A)は事例が公開されているケースが希で、情報収集すらままならないのが実情です。
そこで今回は、歯科医院に特化した事業承継(M&A)のやり方について、徹底解説していきます。
歯科医院の事業承継にはどのような選択肢があるのか、親族または第三者へ譲渡する違い、個人医院と医療法人との違い、費用相場なども解説していますので、ぜひ参考にしてください。

水谷 友春
■ 監修者

日本歯科医療投資株式会社 代表取締役歯科医師:水谷 友春

詳細はこちら

歯科医が事業承継すべき2つの理由

現役の歯科医師として診療を行いながら、M&Aの専門家として活動している立場から言わせていただくと、規模を問わず全ての歯科医院は、閉院する前に事業承継を検討すべきだと強く感じています。

このような結論に至った主な理由は2つあり、その最たる物が歯科医院の閉院によって患者様が被る不利益です。

理由 ①

実際、歯科医師として診療にあたっていると、近隣の歯科医院が閉院した影響で新患が増えており、「新しい歯科医院に馴染めるか不安だった」「一から症状を説明するのが面倒」といった生の声をよく耳にします。

歯科医院側としても、以前の歯周病検査のポケットの数値やパノラマ画像もない中で、症状の推移をデータで把握することができないといったデメリットがあります。

また、歯科医師が事業承継を検討すべきもう1つの理由は、従業員の生活に対する責任です。

理由 ②

たしかに、歯科医院の事業を存続するかどうかの決定権は、経営者が持っています。

体力が落ちたから、あるいは個人資産が増えたからなど閉院する理由は人それぞれですが、あくまで「自身」の人生設計の一部として医院をどうすべきかを考えている歯科医師が多数派です。

しかし、経営者が引退するタイミングと従業員が引退するタイミングは、必ずしも一致しません。

人材不足は歯科業界における大きな懸念材料であり、何より歯科の現場をよく知る優秀なスタッフは貴重な存在です。

長年にわたって貢献してくれた従業員だからこそ、引き続き働ける環境を維持できるよう、注力すべきではないでしょうか。

歯科医の事業承継はファンドの参入で進化している!

歯科医院の事業承継には、これまで、以下のような定説がありました。

  • 事業承継といえば親族間がデフォルト
  • 小さい診療所なら売れていたが、大規模歯科医院は個人の歯科医師相手には売れない
  • 歯科医院を買収したい一般企業はほとんどない

しかし、徐々にではあるものの、投資ファンド等の参入によってM&Aが活発化し、これまで難しかった資産価値が数億を超える大規模歯科医院であっても、事業承継が可能になっているのです。

事実、弊社では、売上数億円単位の大規模歯科医院のM&Aの支援を数多く行ってきており、譲渡金額が10億円を超えるケースも珍しくありません。

ただし、医療法による規制も多い、歯科医院の事業継承をスムーズに成功させるには、様々なスキームを掛け合わせる必要があるため、「歯科業界」と「M&A業界」の両方の事情に精通していなければなりません。

その点、現役の歯科医師であり、投資ファンド傘下における事業投資責任者としてM&Aに携わってきた代表者が率いる弊社であれば、専門家ならではのスキームを提供することが可能です。

弊社が提供しているサポート内容については、以下の記事で詳しく解説しておりますので、ぜひご一読ください。

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そもそも歯科医院の事業承継とは?

歯科医院の事業承継とは、医業承継やクリニック承継とも呼ばれており、立場(売手側または買手側)によって以下のような違いがあります。

  • 売手側の目線:自身が経営していた歯科医院事業を、第三者に引き継ぐこと
  • 買手側の目線:すでに第三者が経営していた歯科医院事業を、受け継ぐこと

売手側にとっては閉院せずに既存の患者の受け皿を確保できる、買手側にとっては初期費用を抑えて開業できるなど、両者にとって多くのメリットをもたらすのが、歯科医院の事情承継です。

事業承継・事業継承・事業譲渡・事業売却の違い

事業承継は事業継承と、事業譲渡は事業売却と同じ意味合いを持つ言葉ですが、両者の違いは専門家の間でも解釈が分かれており、明確な定義はありません。

あえて平たく言うなら、両者には以下のような特徴があります。

  • 事業承継(事業継承):すべての事業を「一括」で譲り渡すこと
  • 事業譲渡(事業売却):事業の一部だけを「分割」して譲り渡すこと

歯科医院の事業承継が増えている理由

近年、歯科医院の事業承継が増えている代表的な理由として、以下の2点が挙げられます。

  • 歯科医師の平均年齢の高齢化により、引退や閉院を考える人が増えている
  • 投資ファンド等、歯科医院の買収(M&A)に興味を持つ企業が増えてきている

ここからは、上記の理由について個別に解説していきます。

歯科医師の平均年齢の高齢化により、引退や閉院を考える人が増えている

歯科医院の事業承継が年々増えている理由はいくつかあります。

なかでも大きな要因となっているのが、令和4年(平成22年)に初めて「歯科医師の総数が減少」に転じたにもかかわらず、「歯科医師の平均年齢の高齢化」が加速しており、なおかつ若手の勤務医が減少している現状です。

厚生労働省が公開している「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、令和4年の歯科医師数は前回の調査に比べて2,199人、2.1%減少しているのが分かります。

  • 令和2年(2020年):104,118人
  • 令和4年(2022年):101,919人

同調査は平成8年(1996年)から2年に1度のペースで実施されており、これまで右肩上がりに増加していた歯科医師数が、初めて減少したと業界で大きな話題となりました。

他方で、平成22年(2010年)~令和4年(2022年)の調査結果を比較してみると、12年間で29歳~59歳までの歯科医師が減少しているのに対し、60歳以上の歯科医師が9.3%、70歳以上の歯科医師が6.0%増加しており、高齢化が急速に進んでいるのが分かります。

 総数29歳以下30~39歳40~49歳50~59歳60~69歳70歳以上
平成22年(2010年)98,723人7,657人 約7.8%20,204人 約20.5%24,227人 約24.5%26,105人 約26.4%13,649人 約13.8%6,881人 約7%
令和4年 (2022年)101,919人5,963人 約5.9%16,942人 約17%20,217人 約20%22,398人 約22%23,566人 約23.1%12,833人 約13%
増減+3,196人-1.9%-35%-4.5%-4.4%+9.3%+6.0%

参考:平成22(2010)年 医師・歯科医師・薬剤師調査の概況

参考:令和4(2022)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況

ちなみに、歯科医師の平均年齢は以下の通りとなっており、歯科医院を経営していると推測される「診療所に従事している歯科医師」の方が、「病院に従事している歯科医師」よりも早いペースで高齢化が進んでいました。

さらに60歳以上の歯科医師が占めている割合を比較してみると、平成22年(2010年)の20.8%から令和4年(2022年)では36.1%に急増しているのです。

 昭和57年(1982年)令和4年(2022年)
診療所に従事する歯科医師の平均年齢47.3歳54.8歳
病院に従事する歯科医師の平均年齢33.1歳39.3歳

参考:令和4(2022)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況

これらの現状を踏まえると、年齢を重ねるごとに治療技術や医療機器の進化への対応、あるいはDX化の難しさといった問題点が浮き彫りになり、事業承継を検討し始めるきっかけになっていると考えられます。

だからと言って、最新医療やDX化に明るい若手の勤務医を雇用するのも簡単ではありません。

そもそも高齢化が進んでいる日本の歯科業界では、若手の勤務医自体が減っており、人材不足が深刻化しています。

つまり、「歯科医師全体の減少」「加速する高齢化」「勤務医の減少」という3つの現象は、事業承継が増えている要因であると同時に、より事業承継を難しくさせている原因とも言えるのです。

投資ファンドによる大型歯科医院の買収(M&A)が増加

投資ファンドによる大型歯科医院の買収(M&A)が増加しているのも、業界全体で事業承継の流れが加速している要因の1つです。

これまで第三者への事業承継と言えば数千万単位で売れる個人の歯科医院がメインでしたが、今では複数の拠点を構える大型歯科医院を対象にした億単位のM&Aが増加しています。

その背景として、未上場企業の株式へ投資をするPEファンドへの資金流入増加、さらに投資対象の拡大が挙げられます。

たとえば、アメリカ全土に展開している大型歯科医院の大半は、医療ではなく「経営のプロ」がマネジメントを行うDSO(Dental Service Organization:デンタル・サポート・オーガニゼーション)という組織運営が主流になっており、全米の約8%の歯科医院がチェーン化されているというデータもあります。1位の歯科グループは約1,800医院を有しますが、これも投資ファンド等、企業活動の影響を受けた結果です。

米国で出資を行っている日本の商社もあり、日本国内でも米国式のDSOによって歯科医院を買収するファンドが頭角を現しています。

歯科医院の事業承継形態の種類

歯科医院の事業承継形態を大きく分類すると、以下の3種類に分けられます。

  1. 親族への事業承継
  2. 勤務医への事業承継(MBO)
  3. 第三者への事業承継(M&A)

ここからは、上記3タイプの事業承継にはどのような違いがあるのか、それぞれのメリット・デメリットをピックアップしながら解説していきます。

親族への事業承継

歯科医院の事業承継として最もポピュラーなのが、親族間で行うケースです。

たしかに、現経営者の理念を引き継ぐ担い手としては、考え方や働く姿勢を側で見てきた子供や孫といった親族ほど、適切な人材はいないでしょう。

ただし、ここで留意して欲しいのが「歯科医院の価値」についてです。

第三者へM&Aで事業承継すれば数億円の収益が見込める歯科医院であっても、親族が相手では同額の利益を得ることは事実上あり得ません。

むしろ、ほとんどタダで譲り渡すケースがデフォルトになっているため、場合によっては億単位の損失になるリスクを孕んでいます。

親族を対象に事業承継を行う場合は、後述するメリットとデメリットを比較したうえで、慎重に検討してください。

親や親戚が運営していた歯科医院を、子供・甥・姪などの身内に引き継ぐ場合は、そのほとんどが無償で譲渡されているため、「贈与税」「相続税」に留意する必要があります。

メリット

親族間で事業承継を行う際の主なメリットは、以下の7点です。

親族へ事業承継するメリット
1. コミュニケーションが取りやすい
2. 現経営者が自ら後継者を教育できる
3. スタッフと関係を構築するための時間が確保できる
4. 引き継ぐ前に現経営者やスタッフと一緒に働いて、現場の空気を体感してもらえる
5. 医院の現状について、強み・改善点を洗い出しやすい
6. 患者からの信頼を維持できる
7. 電子カルテなど、各種データを移行する手間がかからない(同医院で診療する場合)

最大のメリットは、現経営者やスタッフと承継者間のコミュニケーションの取りやすさでしょう。

歯科医院を受け渡す、あるいは引き継ぐには細部にわたる相互理解が欠かせません。

たとえば以下のような事柄について他人同士が意思疎通を図るには、相当な労力が必要です。

その点、身内が相手であれば遠慮なく本音で話し合うことができるでしょう。

  • 受け渡す側と引き継ぐ側のビジョンは一致しているか?
  • どのような課題を抱えており、解決するにはどうしたらよいか?
  • スタッフと円満な関係性を維持するには、どのようなコツがあるのか?
  • 患者ごとの留意点はないか?
  • 不動産や医療機器などの資産は無償か、もしくは賃貸(貸与)にすべきか?

事業承継を行う前に十分な準備期間を設けて、同じ歯科医院で働きながら徐々に引き継ぎを行うのが理想的です。

デメリット

親族間の事業承継についてハードルが低い、夢を託せるなどポジティブなイメージが定着していますが、だからと言ってメリットばかりという訳ではありません。

むしろ以下のようなデメリットが見過ごされがちなため、事前に理解を深めておく必要があります。

親族へ事業承継するデメリット
1. 第三者に売却するほど高い金額では譲渡できない
2. 非医療法人の場合、ごく希に贈与税や相続税がかかる
3. 医師としてだけでなく、経営者としてのスキルがあるかは未知数
4. 身内だからこそ、後継者教育が甘くなりがち
5. 距離感が近すぎて遠慮がなくなり、トラブルに発展することもある

親族へ事業承継する最大のデメリットは、なんと言っても「高い金額で譲渡できない」という点でしょう。

現在の市況を鑑みると、歯科医院は第三者に売却することが可能で、資産価値を持つ存在とも言えます。

にもかかわらず子供・兄弟・甥・姪などに引き継いでしまうと、その価値が大きく損なわれかねません。

実際、「親族へ事業承継する=タダで譲る」という本質を見過ごしている方が多いのです。

親族へ事業承継する際の留意点

親や親戚が運営していた歯科医院を子供・甥・姪などの身内に引き継ぐ場合は、そのほとんどが無償で譲渡されているため、ごく希ではあるものの「贈与税」「相続税」に留意する必要があります。

  • 個人開業の場合:償却資産の譲渡に該当するため、「贈与税」がかかる
  • 親が亡くなった後に継ぐ場合:「相続税」がかかる

「贈与税」や「相続税」の負担を軽減して承継するには、事前に法人化しておくことをおすすめします。

勤務医への事業承継(MBO)

親族に跡取りがいない歯科医師にとって、承継先の有力候補となるのが自身の医院に務めている勤務医でしょう。

既に組織内に在籍する経営層への譲渡を「MBO(マンジメント・バイアウト)」と称するケースもありますが、ここからは、勤務医へ事業承継するメリット・デメリットについて解説していきます。

メリット

結論から言うと、勤務医へ事業承継するメリットは、親族へ事業承継する5つのメリットとほぼ同じです。

とくに、長年にわたりロイヤリティ(忠誠心)を持って務めてくれている勤務医は、まさに「番頭」のような存在ですから、一から信頼関係を築く手間もかかりません。

デメリット

一方、勤務医へ事業承継するデメリットとして特筆したいのが、資金調達の難しさです。

個人として金融機関から融資が受けられる金額には上限があり、よほど実家が資産家で担保提供でもしない限り、一般的には8,000万円程度までしか貸して貰えません。

歯科医院の価値が8,000万円以内であれば適正価格での事業承継が可能ですが、複数の拠点を構えている大型医院の場合は億単位の高額取引が想定されるため、よほどの資産家でない限り不可能と言って良いでしょう。

人材としては有望ではあるものの、適正価格で事業承継し難いという点では、ある意味、親族への事業承継と共通したデメリットを内包しているのです。

第三者への事業承継(M&A)

親族間の事業承継が叶わなかった場合は閉院するのが一般的ですが、近年ではM&Aによって第三者の個人や会社などの組織に受け渡すケースも徐々に増えてきています

M&Aにおける第三者、つまり買手は以下の2パターンに分けられます。

  • 面識のない第三者:信頼関係を一から築く必要はあるものの、最も適正価格で取引できる相手
  • 勤務医:信頼はできるが、適正価格で承継できるとは限らない

上記の理由により、弊社では第三者への事業承継(M&A)を推奨しています。

ここからは、第三者へ事業承継(M&A)するメリット・デメリットについて解説していきましょう。

メリット

第三者へ事業承継を行う主なメリットは、以下の6点です。

第三者へ事業承継するメリット
1. 身内に後継者がいなくても、廃院せずに済む
2. 売手として幅広い候補の中から承継先を選べる
3. 歯科医院の経営経験者や理事、優秀な歯科医師などに承継して貰える可能性がある
4. 自身のビジョンを受け継いでくれる承継者を選べる
5. 適正価格での取引が可能なため、場合によっては億単位の収入が見込める
6. 収益や利益率など、ビジネスライクな交渉が可能

最大の強みは、承継先の「選択肢の多さ」「価格の適正さ」です。

承継先が個人の場合は、経営理念に共感してくれる人を選ぶ、あるいは売買額の高さを優先して選ぶ、もしくは歯科医師としての「腕」を優先して選ぶなど、自由にターゲットを定めることができます。

何より、従来であればほぼ不可能だった複数拠点を展開している大型歯科医院の事業承継が可能なのは、第三者を対象にした事業承継(M&A)ならではの大きなメリットです。

とくに、法人や投資ファンドなどの資本をもつ組織に受け渡す場合は、数億単位の取引実績が豊富な買手が多いため、交渉がスピーディーかつスムーズに進むという強みがあります。

引き継いでもらえそうな第三者に心当たりがない場合は、売手と買手を繋ぐプロのM&A仲介会社への依頼を検討してみてはいかがでしょうか。

歯科医院に特化したM&A仲介会社なら、希望の条件に合った候補先をリストアップし、売却後の働き方といった点も含めて、最適なパートナーを紹介してくれる可能性があります。

デメリット

第三者へ事業承継を行うデメリットとして、以下の5点が挙げられます。

第三者へ事業承継するデメリット
1. 買手が個人の場合、適正価格で売却できない可能性(割安価格で売却してしまう可能性)
2. 譲渡額を口約束で決めてしまうと、金銭トラブルに繋がる
3. 直接対話する機会が少ないと、トラブルに発展する可能性がある
4. 歯科医院の内部状況を、承継先が100%把握してくれるとは限らない
5. 電子カルテやレセプトデータを移行する、手間と時間がかかる

最も懸念すべきデメリットは、適正価格で売却できない可能性です。

日本では年々、歯科医院の大型化が進んでおり、適正価格が数億円単位になるケースが増加しています。

しかし、個人の歯科医師が医院を開業しようとする場合、銀行融資の関係上8,000万円程度までしか借り入れができません。

したがって、たとえ受け渡したい歯科医院の価値が8,000万円以上だったとしても、それ以上の金額では個人相手に譲渡することが難しいため、必然的に法人や投資ファンド、商社などが有力候補となります。

第三者への事業承継は、「適正価格で引き継いでくれる相手を見つけられるかどうか」が、成否の鍵を握っていると言っても過言ではありません。

法人の継承先に伝手がない場合は、歯科医院専門のコンサルティングサービス会社への依頼を検討してみましょう。

事業拡大(分院展開)を希望する第三者への事業承継

4つめにご紹介するのは前述したM&Aの一種である、事業拡大(分院展開)が目的の事業承継です。

医療法人が事業拡大のために分院展開をする際、閉院予定の医院を場所と機材のみ(居抜き)承継するケースがあります。

ただし、いわゆる「居抜き医院承継」と呼ばれる形態は場所と機材以外は引き継がないため、患者様やスタッフについては引き継がないことが一般的です。

患者様やスタッフにとってメリットはなく、売手にとっても高額な売却は期待できないため、弊社では閉院する前により高額な収益が見込めるM&Aを推奨しています。

なお、事業拡大(分院展開)が目的の事業承継は従来から存在するものの、売手の歯科医師にとってはデメリットが多いうえ、売却希望医院の数に対して、売却ができる医院の数は少ないのが現状です。

  • 売手にとっての旨味は、機材だけ売るよりもマシな程度
  • 買手にとっては物件と機材のみの譲渡なので、スタッフや患者は引き継げないことが多い
  • 従業員や患者様にとっては場所以外すべて変わってしまうため、デメリットが大きい

上記の現状を踏まえると、事業承継の相手「親族」または「勤務医」「第三者」のいずれかが選択肢となります。

個人開業の歯科医院を事業承継するケース

個人開業の歯科医院を事業承継する際は、以下のような諸手続きが必要です。

承継条件交渉および確定のために必要なこと
1. 改修工事や追加医療機器を手配する打ち合わせ、および見積もりの依頼
2. 承継譲渡契約、およびスタッフへ継続雇用の条件などを通達
3. 融資申込、および融資承認
4. 患者や関係業者へ承継の告知、および広告や印刷物などの手配
5. 融資の実行
6. 歯科医院の引渡し(契約条件を遵守しているかを確認)
開業後に行うべきこと
1. 保健所:廃止届(X 線装置)・開設届・X 線装置備付届
2. 厚生局:廃止届・保険指定申請・遡及願・引継書・施設基準書
3. 管轄官庁:生活保護指定解除届・生活保護指定申請
4. 社保支払基金・国保連合会:諸届け

また、これらがスムーズに進むことは希であり、交渉やスタッフとの話し合いが長引いた結果、事業承継が完了するまで1年以上かかるケースも珍しくありません。

そもそも個人開業の歯科医院は、そのほとんどが初めて事業承継を行うため、慣れていないのはもちろんノウハウも持ち合わせていません。

何より、この規模の歯科医院に興味を示す買手も少ないため、途中で頓挫するなど非常に不確実性が高いのが実情です。

個人開業歯科医院の事業承継に必要な届出

個人開業歯科医院の事業承継に必要な届出は、大きく「現経営者が行う廃止手続き」と「承継者が行う開業手続き」に分かれており、それぞれ以下のようなものが想定されます。

▼現経営者が行う廃止手続き

  • 診療所廃業届:廃止後10日以内に、保健所へ提出
  • 診療用エックス線装置廃止届:廃止後10日以内に、保健所へ提出
  • 保険医療機関廃止届:廃止後10日以内に、地方厚生(支)局事務所などに提出
  • 事業廃止届出書:廃止後、速やかに税務署へ提出
  • 個人事業の開廃業等届出書:廃止1か月以内に、税務署へ提出
  • 給与支払事務所等の廃止届出書:廃止1か月以内に、税務署へ提出

▼承継者が行う開業手続き

  • 診療所開設届:開設後10日以内に、保健所へ提出
  • 診療用エックス線装置備付届:開設後10日以内に、保健所へ提出
  • 麻薬施用(管理)者免許申請:締め切りや処理期間は、地域ごとに異なる
  • 保険医療機関指定申請書:締切日は歯科医院開設地管轄の地方厚生(支)局事務所ごとに定められている
  • 保険医療機関遡及願:地方厚生(支)局事務所の規定に従う
  • 個人事業の開廃業等届出書:開業1か月以内に、税務署へ提出
  • 青色申告承認申請書:開業後2か月以内に、税務署へ提出
  • 青色専従者給与に関する届出書:経費算入開始の2か月以内に、税務署へ提出
  • 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書兼納期の特例適用者に係る納期限の特例に関する届出書:給与支給人員が常時10人未満の場合は通常、源泉徴収を毎月納付する義務があり、申請が通れば年に2回にまとめることが可能

なお、開設手続きは地域によって取り扱いが違ううえ、ケースによっても必要書類が異なるため、あらかじめ専門家に相談しておきましょう。

医療法人の歯科医院を事業承継するケース

医療法人における歯科医院の事業承継は、大きく以下の2パターンに分けられ、設立された年度によって事業承継のやり方に違いがあります。

  • 「出資持ち分あり」の旧医療法に基づいて設立された医療法人
  • 医療法改正後に設立された「出資持ち分なし」の医療法人

まず大前提として医療法人には株式がないため、「経営権」と「配当を受ける権利」はどちらもありません。

言い換えれば、新法であろうと旧法であろうと、医療法人の事業承継においては「経営権」をどのように移すか、さらに「お金」をどうのように支払うかがポイントになるのです。

経営権の移管については新法・旧法ともに同じ方法で行えますが、お金(代金)の渡し方は大きく異なります。

旧法の医療法人では出資持ち分があるため、税法上の取り扱いは「株式」とほとんど同じになっており、出資持ち分を株式として譲渡した代金に対して、20.315%の税金がかかります。

一方、新法の医療法人は株式に相当する出資持ち分がないため、単純に取引できない分難易度が高く、専門的なスキームが欠かせません。

他方で、歯科医院に対してサービスを提供している株式会社(MS法人)を所有されている場合も多く、そちらについての価値が評価されるケースも散見されます。

新法の医療法人が事業承継を行う場合は、適法性に留意しつつ進めるためにも、プロのサポートを受けた方が安全です。

医療法人歯科医院の事業承継に必要な届出

医療法人歯科医院の事業承継に必要な届出は、以下を参考にしてください。

  • 医療法人役員変更届:保健所へ提出
  • 医療法人の登記事項の届出:変更後の登記事項証明書を、保健所に提出
  • 保険医療機関届出事項変更届:地方厚生(支)局事務所へ提出
  • 医療法人役員変更登記申請書:法務局へ提出
  • 異動届出書(代表者の変更):税務署へ提出

こちらも、ケースバイケースで必要な届け出が異なるため、専門家に相談しましょう。株式会社の歯科医院を事業承継するケース

株式会社と医療法人では、事業承継において以下のような違いがあります。

  • 医療法人:医療行為に関する資格や経験が必要
  • 株式会社:医療法人ほど医療行為に関する規制が少ないため、後継者の選択肢が広がる

事業承継において後継者の選択肢が広がるのは、株式会社ならではの強みと言えます。

その反面、患者から見て高い専門性を備えていないことがデメリットになることも否めません。

なお、株式会社は営利目的の法人ですから、歯科を始めとする医療を提供する施設の経営は、原則的に禁止されています。

医療サービスの提供が主たる業務ではなく、製造業といった他の業種にも従事しているケースであれば可能ですが、都道府県より許可されるのはごく稀と言えるでしょ

歯科医院の事業承継を行う流れ

歯科医院の事業承継は、以下の流れに沿って行うのが一般的です。

売手側手順買手側
引き継いで欲しい相手に求める条件を洗い出し、自身のビジョンを踏襲してもらうか、もしくは自由に経営してもらうか、大筋を決めておく。①相手に求める条件と、開業後の基本方針を熟考する開業エリアや開業時期などの条件を洗い出し、自身が経営する予定の歯科医院のコンセプトを定めておくことで、選択作業がスムーズに行える。
事業承継のイメージを伝え、実現可能かどうか相談する。豊富な候補者リストを保有している専門家に相談した方が、効率的かつリスクヘッジになる。②第三者が対象の場合は、歯科医院の事業承継に特化している専門家へ相談する事業承継のイメージを伝え、実現可能かどうか相談する。豊富な候補者リストを保有している専門家に相談した方が、効率的かつリスクヘッジになる。
信用できる専門家が決まったら、秘密保持契約と仲介契約を結ぶ。③契約書の締結信用できる専門家が決まったら、秘密保持契約と仲介契約を結ぶ。
条件に合った「承継先」をリストアップしてもらい、候補を絞り込む。④事業継承の候補を選定条件に合った「歯科医院」をリストアップしてもらい、候補を絞り込む。
「承継先」の候補と面談し、歯科医院の内見に立ち会いながら、内情を説明する。⑤絞り込んだ候補と面談・内見「譲渡元」の候補と面談し、歯科医院の内見を行う。
内装の手直しや既存設備の修理など、双方が納得できる条件を決める。⑥相手を決定し、条件調整・合意書締結を行う内装の手直しや既存設備の修理など、双方が納得できる条件を決める。
承継側が実施した買収監査の結果を踏まえ、問題がなければ契約書を締結する。 ただし、規模が小さい個人経営の歯科医院の場合は、監査を行わないケースもある。⑦買収監査・最終条件の調整・契約書の締結承継側は、合意書締結後に譲渡側の歯科医院に不備がないか「買収監査」を行い、問題がなければ契約書を締結する。 ただし、規模が小さい個人経営の歯科医院の場合は、監査を行わないケースもある。
譲渡側が承継側へ、歯科医院の資産を受け渡す。⑧事業承継の実行・支払い承継側が譲渡側へ対価を支払う。
⑨行政手続き承継側は、歯科医院を管轄する保健所に「診療所開設届」を提出し、検査を受ける。
承継側へ、建物や医療機器などのハード系資産を受け渡す。 場合によっては、電子カルテや既存スタッフの引き渡しも行う。⑩ハードの引き継ぎ譲渡側から、建物や医療機器などのハード系資産を受け取る。 場合によっては、電子カルテや既存スタッフの引き渡しも行う。
患者ごとの診療方針など、情報を提供する。⑪ソフトの引き継ぎ患者ごとの診療方針などの、申し送りを受ける。

歯科医院の事業承継にかかる費用相場

継承開業にかかる費用の主な内訳は、以下の通りです。

費用項目特  徴
譲渡代営業権と譲渡対象資産の合計額で、費用の大部分を占める。総額は、歯科医院の所在地や評価額(価値)によって決まる。
仲介手数料仲介会社や条件によって異なる
弁護士費用大手が買手の案件では、投資対象の価値やリスクなどを調査するデューディリジェンスを行うため必須。 ただし、中小が買手の案件では、弁護士を手配しないケースもある。
医師会入会金買手が医師会に未入会の場合も多いためケースバイケースだが、傾向としては希。
内装費用リニューアルが必要な場合のみ発生する。
医療機器代新規購入、または入れ替えが必要な場合のみ発生する。

歯科医院の事業承継にかかる費用の大部分を占めているのが、「譲渡代」です。

小規模案件における譲渡代は、以下の理由により高額での譲渡は難しいとされています。

  • 個人間の事業承継が多く、譲渡先に潤沢な資金がない
  • 買手の多くは、より多くの資金を安全に調達するノウハウを持っていない
  • 売手の多くは、本来の適正価格を算出するノウハウを持っていない
  • お互いに契約や手続きのノウハウがない

そこで注目されているのが、歯科医院の事業承継を数多く手掛けている専門家の存在です。

M&Aの仲介会社は、歯科医院の適正価格を算出する方法や資金調達のノウハウを熟知しています。

さらに、歯科業界に強い外部の企業であっても、投資ファンド等、歯科医院の承継に関心を示す候補先のリストを多く持っており、より高額な金額での事業承継を実現しているのです。

ちなみに以下のページでは、15問の質問に回答するだけで歯科医院の譲渡価格を無料で算出するシミュレーターを提供しておりますので、ぜひお気軽にお試しください。

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事業承継した歯科医師の成功事例

この章では、当社代表の水谷が支援した事業承継のうち、成功事例の一部をご紹介します。

出典:現役歯科医師が解説する歯科医院M&A入門ガイドブック

ガイドブックでは他にも成功事例をご紹介していますので、ご興味にある方はぜひアクセスしてみてください。

まとめ

この記事では、歯科医院の事業承継について、あらゆる角度から深掘りした情報をお届けしてきました。

日本の歯科医院は後継者不足が深刻化しているものの、多くの歯科医師は後継者問題への対応策を持たず、今後、地域の歯科医療の担い手が不足し、社会問題化されることも予想されます。

そういった状況に対して、第三者へ事業承継(M&A)が今後、より注目されてくることは間違いありません。

とはいえ、理想的な承継者を見つけるのは簡単ではなく、ましてルールが複雑かつ規制が厳しい医療法人の場合はハードルが高いのが実情です。

株式会社と比べてハードルが高い歯科医院の事業承継をスムーズかつ有利に進めるには、歯科業界を熟知し、歯科医院M&Aの経験が豊富なプロのM&A仲介会社への依頼を検討してみてはいかがでしょうか?

事業継承・M&A | 日本歯科医療投資株式会社