歯科医院M&A(売却)入門

歯科医院の
M&Aマーケット

歯科医師の承継対策についての
現状意識

歯科医師の後継者不在率は90 %超(※1)とする調査もあるなど、全業種屈指の高さですが、歯科医師の多くは承継対策案を持たない現実(※ 2 )があります。

継承への問題意識

承継の対策

身近な承継事例

  • ※ 1 出所:帝国データバンク「全国企業『後継者不在率』動向調査」(2020 年)
  • ※ 2 出所:「姻科医院の承継にかかるアンケート集計結果」(2019 年11 月、大阪大学歯学部同窓会l歴史資料館・広報活動第124 号)

歯科医院のM&Aの現状

事業会社•投資会社においては空前のM&A ブームともいえる状況。

  • 既存事業拡大や新規事業参入にM&A を活用する企業が増加。
  • 収益性の高さや安定感、業界再編の可能性から、歯科医院に注目する企業も増加している。

歯科医院M&Aの特徴

歯科医院のM&A においては、売手買手の双方に下記のメリット/デメリットが挙げられます。

売手側

メリット

  1. 医院を存続させることができる
  2. 地域や患者さんに迷惑をかけない
  3. 従業員の雇用が守られる
  4. 売却益を獲得できる
  5. 売却益は低税率で個人所得となる
  6. 相続対策を兼ねることができる
  7. 経営のストレスから解放される
  8. 新しい働き方を獲得できる
  9. 自院をさらに発展させることができる

デメリット

  1. お相手探しや交渉に専門知識が必要
  2. 一定の引継ぎ期間が必要
  3. お相手との相性はすぐには分からない
  4. 全ての医院が譲渡できるわけではない

買手側

メリット

  1. 既に実績のある医院を取得できる
  2. 医院展開のスピードを上げることができる
  3. 対象医院のノウハウを獲得できる
  4. 人材を一気に獲得できる
  5. 有能な幹部クラススタッフを獲得できる
  6. 診療内容によっては、お互いをの弱みを補える
  7. 遠隔地に拠点を持つことができる
  8. 新規事業として歯科医院を始められる

デメリット

  1. お相手探しや交渉に専門知識が必要
  2. お相手に選ばれる必要がある
  3. お相手との相性はすぐには分からない
  4. 新規開業とは異なる運営ノウハウが必要

歯科医院のM&Aでは、お相手探しや交渉、M&A後の医院運営に専門知識や新規開業とは異なるノウハウが必要とされます。多くの歯科医師に知見が不足している分野であり、ハードルが高く感じられますが、上記の通り、売手・買手ともに、歯科医院のM&A によるメリットは、デメリットを大きく上回ります。

M&Aしやすい歯科医院

M&Aを成功させるためには医院側の条件とタイミングの2 つの要素が重要です。

譲渡しやすい歯科医院

  1. 医院に規模感がある
  2. 各種マニュアルが整備されている
  3. 経営数値が可視化されている
  4. 法令順守の医院運営がされている
  5. 好立地に位置している
  6. 出資持分あ.り法人 or MS法人がある

一般論として、個人に依存した運営をされている歯科医院に関心を示す候補先は多くありません。
また、譲渡側としては、自院に関心を示す 候補先が多いほど、M&Aの成功確率は高くなるため、「属人性が低く、持続可能な医院」を構築しておくことが、重要といえます。

譲渡しやすいタイミング

  1. 売上が増加傾向 or 安定している
  2. M&A後も院長の継続勤務が可能
  3. 院長の年齢が若い
  4. 法人の非事業用資産が調整されている
  5. M&Aの市況を捉えている

M&A という言葉の響きから、「経営不振の医 院が身売りする」 というイメージを持たれる 方もいらっしゃいますが、直近のトレンドは「業績好調な歯科医院の高額売却」という、大変、名誉な意味合いを持ってきています。
高額での売却を叶えるためには、院長と法人の最高の状態を捉えることが重要といえます。

どのような医院でも譲渡できるわけではなく、医院が整備されていて、
タイミングを捉えることがM&A の成功には重要です。
一般論として「M&A は、惜しいと思う時が売り時」などとよくいわれます。

歯科医院の価格
(企業価値評価)

歯科医院の価格(企業価値)の内訳は「事業価値」と「非事業価値」からなります。

歯科医院の価格(企業価値)
事業価値 事業継続を前提として
将来にわたって企業が稼ぎ出すカ
非事業価値 事業活動に必要ない資産

余剰資金・有価証券•生命保険・オーナー使用社用車・社宅等

事業価値とは

歯科医院のような労働集約型のビジネスでは利益をベースに算出されることが一般的です。利益にも様々な指標があるが、M&Aでは「EBITDA 」と呼ばれる指標に基づく「EBITDAマルチプル法」が採用されることが多くあります。

EBITDAマルチプル法

EBITDA とは

営業利益に減価償却費とオーナー使用経費を足し戻したものが「EBITDA 」。
節税や借入に関係ない、正常収益力(その医院が稼いでくる力)を表したものです。

歯科医院M&Aの
スキーム

スキームにおける重要ポイント

歯科医院M&Aのスキームにおいては、経営権の移譲と譲渡対価の支払い方法の2 点が重要になります。特に、譲渡対価の支払い方法は、医療法人の出資持分の有無やMS 法人の有無によって変わる(=譲渡側の所得税率が変わる)ため、非常に重要な部分といえます。

経営権の移譲方法
1 社員総会と理事会の地位の譲渡
譲渡対価の支払い方法
1 出資持分 (株式譲渡に係る譲渡所得等)
2 退職金 (退職所得)
3 建物・機材 (譲渡所得・雑所得)
4 MS 法人株式 (株式譲渡に係る譲渡所得等)

買収額支払方法一覧

※スライドして閲覧ください

支払方法 想定税率 売主側のメリット 売主側のデメリット
出資持ち分譲渡
(出資持分あり医療法人のみ)
20.315% 想定される最低税率 特になし
退職金支給
(医療法人から)
約25~28% 役員報酬よりは低い税率 後任の理事長と管理者を採用する必要あり
税務当局との見解の相違に注意が必要
MS法人の株式譲渡 20.315% 想定される最低税率
相続対策になる可能性
特になし
退職金支給
(MS法人から)
約25% 役員報酬よりは低い税率 特になし

経営権と対価支払いの観点から医療法人のM&Aに際して、売手側に想定される組み合わせは下記の通り。

※スライドして閲覧ください

個人事業主 出資持分なし医療法人 出資持分あり医療法人
MS法人無し 経営権・・・×
対価支払い・・・×
経営権・・・
対価支払い・・・
経営権・・・
対価支払い・・・
MS法人あり 経営権・・・×
対価支払い・・・
経営権・・・
対価支払い・・・
経営権・・・
対価支払い・・・

歯科医院のM&A に際しては、出資持分あり医療法人がベストですが、2007 年の医療法改正に伴い、現在では設立できません。経営権のスムーズな移譲と、低税率での譲渡益獲得のためには、これから目指せるのは「出資持分なし医療法人XMS 法人あり」のパターンです。

M&A後の働き方

譲渡後の先生のライフスタイルとして、海外移住や完全引退をイメージされる方もいらっしゃいますが、歯科医院を引き継ぐ側からしたら、M&A後すぐに、譲渡した先生がリタイアしてしまうと、どうなるでしょうか?引継ぎ直後から、買手のみでスムーズに医院運営をすることは難しく、従業員や患者さんに影響を与えてしまう可能性もあります。また、譲渡する側の先生にとっても、「すぐに仕事を完全引退したい」というニーズは少ないようです。

勤務日数や経営責任を調整の上、
譲渡した医院で診療を行う

譲渡を検討される先生方から「経営や人のマネジメントには疲れたが、臨床は好きだ。」という言葉を聞くことは少なくありません。M&Aによって、従業員のマネジメント等は買手に移管し、自身は診療に専念するというスタイルも多く見受けられ、その多くの先生から「以前よりも臨床を楽しんでできるようになった。」という声も聞かれます。

前面に立ち、さらなる規模拡大の陣頭指揮を執る

診療は勿論、医院経営にも積極的に取り組まれてきた先生の中には、規模の拡大にやりがいを感じる先生も多くいらっしゃいます。そういった先生の中には、自身の医院を資本力のある企業に譲渡した上で、買手の資本を用いて、医院の規模拡大や新規出店、さらに買手法人の医院運営の指揮を執る精力的なスタイルも見受けられるようになってきました。「プロ経営者」としての歯科医師の新しい働き方といえるかもしれません。

譲渡後、全ての仕事から完全引退

健康問題やご年齢などの事情から、譲渡後に速やかに全ての仕事から引退を希望される先生もいらっしゃいます。そういった先生が、医院で何の役割も果たしていない場合は、譲渡医院への影響が少ない可能性もありますが、現実にはそういったケースは多くありません。売主がすぐに不在になる場合は、医院の業績も今まで同様で評価することが難しく、売主が引継ぎ勤務ができない案件は検討しない、もしくは非常に安価な価格提示という買手がほとんどです。

譲渡後も、医院を譲渡した売主の先生が引き続き医院に関与することは、買手側は勿論、従業員や患者さんにとっても安心感が大きいものです。最近では、勤務日数や役割を調整した上で、「歯科医師としては生涯現役」を叶える手段として、M&Aを選ぶ先生も増えてきています。他方で、M&Aを実行したからには、新しい働き方を模索されるのも当然のことです。売買双方の希望をすり合わせた上で、ご自身のペース・スタイル・待遇で、譲渡した医院に関与を続ける先生が多いのが今日の歯科医院M&Aの現状といえるでしょう。

よくあるご質問

医院を売却したらすぐに引退できるの?

院長がすぐにいなくなると、医院運営が難しい場合がほとんど。お相手にもよるものの、売却後2~3年の引継ぎ勤務が一般的です。

スタッフはどうなるの?

M&A 成立後、数年間は、給与削減や勤務時間増加などの不利益変更しない旨の確約がなされる場合がほとんどです。また、弊社支援の事例において、M&A を発端とした従業員様の解雇や離職は一件も発生しておりません。

自分で退職金を払う場合とどう違うの?

退職金を受け取るためには、理事長/理事を退職する必要があります。すなわち、医院の管理者に留まることもできないため、後任の管理者兼理事長を採用しなくてはなりません。また、退職金を税務上否認されないためには、勤務日数を半減等させる必要もあります。所得税率の観点では、退職金の約25~28%に対して、より低率の20.315%を目指せる可能性があります。

「ご指名で資本提携希望」の手紙が来る背景は?

一般社団法人M&A仲介協会において自主規制・禁止された真偽の疑わしい営業手法です。ごく稀に、買手から提供されたリストに基づき、ダイレクトメールを発送する場合もありますが、仲介会社の定型文の虚偽である場合がほとんどです。

売却後も、引き続き働くことはできるの?

誰よりも医院のことを理解されている売主の先生。売主が希望する場合、経営責任を負わない形で、中長期的に勤務することも可能な場合がほとんどです。

どれくらい前から準備すればいいの?

売却後即引退は現実的に困難なため、引退目標の2~3年前の売却が一般的です。また、M&A のプロセスは6か月から1年ほどかかり、医院様によっては前準備が必要な場合もあるため、引退目標の5年前からのご準備を弊社では推奨しています。

節税をしているけど、大丈夫?

M&Aにおいては「EBITDA」という利益の指標を用 いることが一般的です。顧問税理士様へのヒアリング等に基づき、アドバイザーやお相手が算出するものですが、M&A後に不要となる売主の私的経費や節税のための費用は足し戻し処理を行うため、価格算出に不利になることはありません。

仲介会社は専任と非専任、どちらがいいの?

非専任で、複数仲介業者と契約し、売却価格の増加・手数料の減額を企図される経営者もおられますが、複数仲介業者から持ち込まれる出回り案件となり、買手候補企業の強気の交渉を招く場合が多くあります。弊社に限らずとも、仲介会社とは専任での契約を強くお勧めします。

弊社サービスのご案内

①歯科医院のM&A仲介サービス

売手様・買手様のマッチングを筆頭にM&Aを仲介するサービスです。
売買双方と仲介契約(アドバイザリー契約)を締結した上で、M&Aの成立まで、資料作成・スキーム立案·マッチング・交渉・助言を行います。
歯科医院のM&A は株式会社とは異なるスキームが必要とされることや、歯科業界に特殊性が存在すること、公開事例も少ないことから、一般的なM&A仲介会社でも知見を持つ会社は多くありません。
弊社は投資ファンド傘下において、歯科医院M&Aに7年間の経験を有する代表水谷のノウハウを全メンバーに共有。歯科業界と金融業界双方に知見をもつメンバーが、M&Aのプロセスを確実かつ丁寧に進めてまいります。
金額面で売買双方にご納得頂けることは勿論、M&A後の売主様ライフプランや買手企業様の事業計画も見据えたご提案を通じて、歯科医師が経営する歯科医院に特化した仲介会社という唯一無二の弊社ミッション「歯科医師の人生に寄り添う」を実現してまいります。

②歯科医院の売却準備サポート

今すぐではないものの、将来的な歯科医院の譲渡に向けて、先生方のご準備をサポートするサービス です。歯科医師人生の引退や、経済的な自由を手に入れる高額譲渡の際に選択肢の一つとなるM&A。とはいえ、弊社が年間約100件の譲渡希望のお問い合わせを頂く中で、実際にM&A が可能な 医院数は極めて少ないことも現状です。譲渡可能な医院づくりに向けて「何から手を付けていいのか分からない」という先生方のお声にお応えして、日常の診療で意識することの少ない財務・法務・労務をはじめとした、各種要素の整備をサポート致します。

③歯科医院の買収サポート

歯科医院の買収に関心がある方に対して、案件獲得方法・歯科医院買収実務・買収後の運営のサポートを行うサービスです。
M&Aによる医院の買収に関心があっても、多くの企業様・医療法人様にとっては持ち込まれる案件も少なく、買収未経験であったり、案件の見方が分からない場合も多いと思われます。買収実績がない企業様には優良案件が紹介される可能性は低く、まずは買収実績をつくることが重要であり、「最初の一件の買収実績づくり」をサポート致します。

代表挨拶

著者
日本歯科医療投資株式会社
代表取締役歯科医師

水谷友春

Tomoharu Mizutani

日本の中小企業における後継者不在率の高さが社会問題化する今日、その解決策としてM&Aが広く認知されてきております。2022年に、日本企業が関与したM&Aの件数は過去最多を記録しており、もはや今日の経済を語るうえで、M&Aは避けては通れない経済活動の一つとなっています。

歯科業界においても、歯科医師の平均年齢は高齢化の一途を辿っており、歯科医院の後継者不在率が90%を超えるとする調査もあるなど、後継者不在の問題は年々高まる一方です。そのような状況下で、近年では歯科医院においてもM&Aが事業承継の選択肢の一つとして広く注目されてきています。

他方で、歯科医院のM&Aにおいては、株式会社と比較して特殊なノウハウが必要とされる一方、公開されている事例も少なく、専門家も少ないことから、M&Aという選択肢の検討に至らない先生方が多い現状も事実です。

私が歯科のみならず、数々のM&Aの現場に携わる中で感じたのは、魅力的な業界においては、異業種からの新規参入も含めた、活発な投資が行われるということです。新たなプレイヤーと資金を得た業界はより活性化し、業界で働く人たちの待遇も向上、優秀な人材が集まり、結果的に業界全体が進歩していきます。

「コンビニより多い歯科医院」などの言葉がメディアに登場するようになって以来、日本社会が歯科業界に持つイメージが低下しているように感じられてなりません。こういったイメージを変えるためにも、歯科医院のM&Aの普及を通じて、歯科医師の生涯収入を最大化し、歯科医師という職業の魅力度向上と、持続可能な地域医療の実現に寄与したい。

これが、自らも歯科医師であり、歯科医師家系の三代目に生まれた私のミッションです。

本書が、読者の皆様の歯科医院M&Aへの理解の一助となりましたら、幸いです。

水谷 友春

略歴
1990年 兵庫県神戸市生まれ
2008年 愛光高等学校卒業
2017年 東京歯科大学卒業・歯科医師国家試験合格
2018年 臨床研修修了
株式会社fundbook 勤務
2019年 株式会社メディカルサポート勤務
(ジャフコグループ株式会社投資先)
医療法人スワン会勤務
2020年 株式会社メディカルサポート事業投資部長就任
2023年 日本歯科医療投資株式会社代表取締役就任
2024年 水谷歯科医院副院長就任
主な支援実績
年商4億円超 首都圏歯科医療法人法人譲渡(出資持分なし)
年商12億円超 北陸地方歯科医療法人法人譲渡(出資持分あり)
年商3 億円超 近畿地方歯科医療法人の分院事業譲渡
年商22 億円超 中部地方歯科医療法人法人譲渡(出資持分あり)
年商13億円超 首都圏歯科医療法人法人譲渡(出資持分なし)
年商7億円超 近畿地方歯科医療法人法人譲渡(出資持分あり)

歯科医院売却価格シミュレーター

   

あなたの医院の予想価格、
知りたくありませんか

個人情報不要で予想金額がわかります。

   今すぐ無料診断

歯科業界において、
トップクラスの支援実績を持つ
私たちがサポートします。

お問い合わせはこちら
歯科医院M&A(売却)入門 | 日本歯科医療投資株式会社