近年、歯科医院の事業承継が進化し、新たなフェーズに突入しているのをご存じでしょうか?
事実、投資ファンドの参入によってM&Aが活発化し、これまで難しかった大規模歯科医院の事業承継が可能になり、億単位の成功事例も少なくありません。
とはいえ、歯科医院の事業承継(M&A)は事例が公開されているケースが希で、情報収集すらままならないのが実情です。
そこで今回は、歯科医院に特化した事業承継(M&A)のやり方について、徹底解説していきます。
歯科医院の事業承継にはどのような選択肢があるのか、親族または第三者へ譲渡する違い、個人医院と医療法人との違い、費用相場なども解説していますので、ぜひ参考にしてください。
歯科医が事業承継すべき2つの理由
現役の歯科医師として診療を行いながら、M&Aの専門家として活動している立場から言わせていただくと、規模を問わず全ての歯科医院は、閉院する前に事業承継を検討すべきだと強く感じています。
このような結論に至った主な理由は2つあり、その最たる物が歯科医院の閉院によって患者様が被る不利益です。
理由 ①
実際、歯科医師として診療にあたっていると、近隣の歯科医院が閉院した影響で新患が増えており、「新しい歯科医院に馴染めるか不安だった」「一から症状を説明するのが面倒」といった生の声をよく耳にします。
歯科医院側としても、以前の歯周病検査のポケットの数値やパノラマ画像もない中で、症状の推移をデータで把握することができないといったデメリットがあります。
また、歯科医師が事業承継を検討すべきもう1つの理由は、従業員の生活に対する責任です。
理由 ②
たしかに、歯科医院の事業を存続するかどうかの決定権は、経営者が持っています。
体力が落ちたから、あるいは個人資産が増えたからなど閉院する理由は人それぞれですが、あくまで「自身」の人生設計の一部として医院をどうすべきかを考えている歯科医師が多数派です。
しかし、経営者が引退するタイミングと従業員が引退するタイミングは、必ずしも一致しません。
人材不足は歯科業界における大きな懸念材料であり、何より歯科の現場をよく知る優秀なスタッフは貴重な存在です。
長年にわたって貢献してくれた従業員だからこそ、引き続き働ける環境を維持できるよう、注力すべきではないでしょうか。
歯科医の事業承継はファンドの参入で進化している!
歯科医院の事業承継には、これまで、以下のような定説がありました。
- 事業承継といえば親族間がデフォルト
- 小さい診療所なら売れていたが、大規模歯科医院は個人の歯科医師相手には売れない
- 歯科医院を買収したい一般企業はほとんどない
しかし、徐々にではあるものの、投資ファンド等の参入によってM&Aが活発化し、これまで難しかった資産価値が数億を超える大規模歯科医院であっても、事業承継が可能になっているのです。
事実、弊社では、売上数億円単位の大規模歯科医院のM&Aの支援を数多く行ってきており、譲渡金額が10億円を超えるケースも珍しくありません。
ただし、医療法による規制も多い、歯科医院の事業継承をスムーズに成功させるには、様々なスキームを掛け合わせる必要があるため、「歯科業界」と「M&A業界」の両方の事情に精通していなければなりません。
その点、現役の歯科医師であり、投資ファンド傘下における事業投資責任者としてM&Aに携わってきた代表者が率いる弊社であれば、専門家ならではのスキームを提供することが可能です。
弊社が提供しているサポート内容については、以下の記事で詳しく解説しておりますので、ぜひご一読ください。
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そもそも歯科医院の事業承継とは?
歯科医院の事業承継とは、医業承継やクリニック承継とも呼ばれており、立場(売手側または買手側)によって以下のような違いがあります。
- 売手側の目線:自身が経営していた歯科医院事業を、第三者に引き継ぐこと
- 買手側の目線:すでに第三者が経営していた歯科医院事業を、受け継ぐこと
売手側にとっては閉院せずに既存の患者の受け皿を確保できる、買手側にとっては初期費用を抑えて開業できるなど、両者にとって多くのメリットをもたらすのが、歯科医院の事情承継です。
事業承継・事業継承・事業譲渡・事業売却の違い
事業承継は事業継承と、事業譲渡は事業売却と同じ意味合いを持つ言葉ですが、両者の違いは専門家の間でも解釈が分かれており、明確な定義はありません。
あえて平たく言うなら、両者には以下のような特徴があります。
- 事業承継(事業継承):すべての事業を「一括」で譲り渡すこと
- 事業譲渡(事業売却):事業の一部だけを「分割」して譲り渡すこと
歯科医院の事業承継が増えている理由
近年、歯科医院の事業承継が増えている代表的な理由として、以下の2点が挙げられます。
- 歯科医師の平均年齢の高齢化により、引退や閉院を考える人が増えている
- 投資ファンド等、歯科医院の買収(M&A)に興味を持つ企業が増えてきている
ここからは、上記の理由について個別に解説していきます。
歯科医師の平均年齢の高齢化により、引退や閉院を考える人が増えている
歯科医院の事業承継が年々増えている理由はいくつかあります。
なかでも大きな要因となっているのが、令和4年(平成22年)に初めて「歯科医師の総数が減少」に転じたにもかかわらず、「歯科医師の平均年齢の高齢化」が加速しており、なおかつ若手の勤務医が減少している現状です。
厚生労働省が公開している「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、令和4年の歯科医師数は前回の調査に比べて2,199人、2.1%減少しているのが分かります。
- 令和2年(2020年):104,118人
- 令和4年(2022年):101,919人
同調査は平成8年(1996年)から2年に1度のペースで実施されており、これまで右肩上がりに増加していた歯科医師数が、初めて減少したと業界で大きな話題となりました。
他方で、平成22年(2010年)~令和4年(2022年)の調査結果を比較してみると、12年間で29歳~59歳までの歯科医師が減少しているのに対し、60歳以上の歯科医師が9.3%、70歳以上の歯科医師が6.0%増加しており、高齢化が急速に進んでいるのが分かります。
総数 | 29歳以下 | 30~39歳 | 40~49歳 | 50~59歳 | 60~69歳 | 70歳以上 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
平成22年(2010年) | 98,723人 | 7,657人 約7.8% | 20,204人 約20.5% | 24,227人 約24.5% | 26,105人 約26.4% | 13,649人 約13.8% | 6,881人 約7% |
令和4年 (2022年) | 101,919人 | 5,963人 約5.9% | 16,942人 約17% | 20,217人 約20% | 22,398人 約22% | 23,566人 約23.1% | 12,833人 約13% |
増減 | +3,196人 | -1.9% | -35% | -4.5% | -4.4% | +9.3% | +6.0% |
参考:平成22(2010)年 医師・歯科医師・薬剤師調査の概況
参考:令和4(2022)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況
ちなみに、歯科医師の平均年齢は以下の通りとなっており、歯科医院を経営していると推測される「診療所に従事している歯科医師」の方が、「病院に従事している歯科医師」よりも早いペースで高齢化が進んでいました。
さらに60歳以上の歯科医師が占めている割合を比較してみると、平成22年(2010年)の20.8%から令和4年(2022年)では36.1%に急増しているのです。
昭和57年(1982年) | 令和4年(2022年) | |
---|---|---|
診療所に従事する歯科医師の平均年齢 | 47.3歳 | 54.8歳 |
病院に従事する歯科医師の平均年齢 | 33.1歳 | 39.3歳 |
参考:令和4(2022)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況
これらの現状を踏まえると、年齢を重ねるごとに治療技術や医療機器の進化への対応、あるいはDX化の難しさといった問題点が浮き彫りになり、事業承継を検討し始めるきっかけになっていると考えられます。
だからと言って、最新医療やDX化に明るい若手の勤務医を雇用するのも簡単ではありません。
そもそも高齢化が進んでいる日本の歯科業界では、若手の勤務医自体が減っており、人材不足が深刻化しています。
つまり、「歯科医師全体の減少」「加速する高齢化」「勤務医の減少」という3つの現象は、事業承継が増えている要因であると同時に、より事業承継を難しくさせている原因とも言えるのです。
投資ファンドによる大型歯科医院の買収(M&A)が増加
投資ファンドによる大型歯科医院の買収(M&A)が増加しているのも、業界全体で事業承継の流れが加速している要因の1つです。
これまで第三者への事業承継と言えば数千万単位で売れる個人の歯科医院がメインでしたが、今では複数の拠点を構える大型歯科医院を対象にした億単位のM&Aが増加しています。
その背景として、未上場企業の株式へ投資をするPEファンドへの資金流入増加、さらに投資対象の拡大が挙げられます。
たとえば、アメリカ全土に展開している大型歯科医院の大半は、医療ではなく「経営のプロ」がマネジメントを行うDSO(Dental Service Organization:デンタル・サポート・オーガニゼーション)という組織運営が主流になっており、全米の約8%の歯科医院がチェーン化されているというデータもあります。1位の歯科グループは約1,800医院を有しますが、これも投資ファンド等、企業活動の影響を受けた結果です。
米国で出資を行っている日本の商社もあり、日本国内でも米国式のDSOによって歯科医院を買収するファンドが頭角を現しています。
歯科医院の事業承継形態の種類
歯科医院の事業承継形態を大きく分類すると、以下の3種類に分けられます。
- 親族への事業承継
- 勤務医への事業承継(MBO)
- 第三者への事業承継(M&A)
ここからは、上記3タイプの事業承継にはどのような違いがあるのか、それぞれのメリット・デメリットをピックアップしながら解説していきます。
親族への事業承継
歯科医院の事業承継として最もポピュラーなのが、親族間で行うケースです。
たしかに、現経営者の理念を引き継ぐ担い手としては、考え方や働く姿勢を側で見てきた子供や孫といった親族ほど、適切な人材はいないでしょう。
ただし、ここで留意して欲しいのが「歯科医院の価値」についてです。
第三者へM&Aで事業承継すれば数億円の収益が見込める歯科医院であっても、親族が相手では同額の利益を得ることは事実上あり得ません。
むしろ、ほとんどタダで譲り渡すケースがデフォルトになっているため、場合によっては億単位の損失になるリスクを孕んでいます。
親族を対象に事業承継を行う場合は、後述するメリットとデメリットを比較したうえで、慎重に検討してください。
親や親戚が運営していた歯科医院を、子供・甥・姪などの身内に引き継ぐ場合は、そのほとんどが無償で譲渡されているため、「贈与税」や「相続税」に留意する必要があります。
メリット
親族間で事業承継を行う際の主なメリットは、以下の7点です。
親族へ事業承継するメリット |
---|
1. コミュニケーションが取りやすい |
2. 現経営者が自ら後継者を教育できる |
3. スタッフと関係を構築するための時間が確保できる |
4. 引き継ぐ前に現経営者やスタッフと一緒に働いて、現場の空気を体感してもらえる |
5. 医院の現状について、強み・改善点を洗い出しやすい |
6. 患者からの信頼を維持できる |
7. 電子カルテなど、各種データを移行する手間がかからない(同医院で診療する場合) |
最大のメリットは、現経営者やスタッフと承継者間のコミュニケーションの取りやすさでしょう。
歯科医院を受け渡す、あるいは引き継ぐには細部にわたる相互理解が欠かせません。
たとえば以下のような事柄について他人同士が意思疎通を図るには、相当な労力が必要です。
その点、身内が相手であれば遠慮なく本音で話し合うことができるでしょう。
- 受け渡す側と引き継ぐ側のビジョンは一致しているか?
- どのような課題を抱えており、解決するにはどうしたらよいか?
- スタッフと円満な関係性を維持するには、どのようなコツがあるのか?
- 患者ごとの留意点はないか?
- 不動産や医療機器などの資産は無償か、もしくは賃貸(貸与)にすべきか?
事業承継を行う前に十分な準備期間を設けて、同じ歯科医院で働きながら徐々に引き継ぎを行うのが理想的です。
デメリット
親族間の事業承継についてハードルが低い、夢を託せるなどポジティブなイメージが定着していますが、だからと言ってメリットばかりという訳ではありません。
むしろ以下のようなデメリットが見過ごされがちなため、事前に理解を深めておく必要があります。
親族へ事業承継するデメリット |
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1. 第三者に売却するほど高い金額では譲渡できない |
2. 非医療法人の場合、ごく希に贈与税や相続税がかかる |
3. 医師としてだけでなく、経営者としてのスキルがあるかは未知数 |
4. 身内だからこそ、後継者教育が甘くなりがち |
5. 距離感が近すぎて遠慮がなくなり、トラブルに発展することもある |
親族へ事業承継する最大のデメリットは、なんと言っても「高い金額で譲渡できない」という点でしょう。
現在の市況を鑑みると、歯科医院は第三者に売却することが可能で、資産価値を持つ存在とも言えます。
にもかかわらず子供・兄弟・甥・姪などに引き継いでしまうと、その価値が大きく損なわれかねません。
実際、「親族へ事業承継する=タダで譲る」という本質を見過ごしている方が多いのです。
親族へ事業承継する際の留意点
親や親戚が運営していた歯科医院を子供・甥・姪などの身内に引き継ぐ場合は、そのほとんどが無償で譲渡されているため、ごく希ではあるものの「贈与税」や「相続税」に留意する必要があります。
- 個人開業の場合:償却資産の譲渡に該当するため、「贈与税」がかかる
- 親が亡くなった後に継ぐ場合:「相続税」がかかる
「贈与税」や「相続税」の負担を軽減して承継するには、事前に法人化しておくことをおすすめします。
勤務医への事業承継(MBO)
親族に跡取りがいない歯科医師にとって、承継先の有力候補となるのが自身の医院に務めている勤務医でしょう。
既に組織内に在籍する経営層への譲渡を「MBO(マンジメント・バイアウト)」と称するケースもありますが、ここからは、勤務医へ事業承継するメリット・デメリットについて解説していきます。
メリット
結論から言うと、勤務医へ事業承継するメリットは、親族へ事業承継する5つのメリットとほぼ同じです。
とくに、長年にわたりロイヤリティ(忠誠心)を持って務めてくれている勤務医は、まさに「番頭」のような存在ですから、一から信頼関係を築く手間もかかりません。
デメリット
一方、勤務医へ事業承継するデメリットとして特筆したいのが、資金調達の難しさです。
個人として金融機関から融資が受けられる金額には上限があり、よほど実家が資産家で担保提供でもしない限り、一般的には8,000万円程度までしか貸して貰えません。
歯科医院の価値が8,000万円以内であれば適正価格での事業承継が可能ですが、複数の拠点を構えている大型医院の場合は億単位の高額取引が想定されるため、よほどの資産家でない限り不可能と言って良いでしょう。
人材としては有望ではあるものの、適正価格で事業承継し難いという点では、ある意味、親族への事業承継と共通したデメリットを内包しているのです。
第三者への事業承継(M&A)
親族間の事業承継が叶わなかった場合は閉院するのが一般的ですが、近年ではM&Aによって第三者の個人や会社などの組織に受け渡すケースも徐々に増えてきています。
M&Aにおける第三者、つまり買手は以下の2パターンに分けられます。
- 面識のない第三者:信頼関係を一から築く必要はあるものの、最も適正価格で取引できる相手
- 勤務医:信頼はできるが、適正価格で承継できるとは限らない
上記の理由により、弊社では第三者への事業承継(M&A)を推奨しています。
ここからは、第三者へ事業承継(M&A)するメリット・デメリットについて解説していきましょう。
メリット
第三者へ事業承継を行う主なメリットは、以下の6点です。
第三者へ事業承継するメリット |
---|
1. 身内に後継者がいなくても、廃院せずに済む |
2. 売手として幅広い候補の中から承継先を選べる |
3. 歯科医院の経営経験者や理事、優秀な歯科医師などに承継して貰える可能性がある |
4. 自身のビジョンを受け継いでくれる承継者を選べる |
5. 適正価格での取引が可能なため、場合によっては億単位の収入が見込める |
6. 収益や利益率など、ビジネスライクな交渉が可能 |
最大の強みは、承継先の「選択肢の多さ」と「価格の適正さ」です。
承継先が個人の場合は、経営理念に共感してくれる人を選ぶ、あるいは売買額の高さを優先して選ぶ、もしくは歯科医師としての「腕」を優先して選ぶなど、自由にターゲットを定めることができます。
何より、従来であればほぼ不可能だった複数拠点を展開している大型歯科医院の事業承継が可能なのは、第三者を対象にした事業承継(M&A)ならではの大きなメリットです。
とくに、法人や投資ファンドなどの資本をもつ組織に受け渡す場合は、数億単位の取引実績が豊富な買手が多いため、交渉がスピーディーかつスムーズに進むという強みがあります。
引き継いでもらえそうな第三者に心当たりがない場合は、売手と買手を繋ぐプロのM&A仲介会社への依頼を検討してみてはいかがでしょうか。
歯科医院に特化したM&A仲介会社なら、希望の条件に合った候補先をリストアップし、売却後の働き方といった点も含めて、最適なパートナーを紹介してくれる可能性があります。
デメリット
第三者へ事業承継を行うデメリットとして、以下の5点が挙げられます。
第三者へ事業承継するデメリット |
---|
1. 買手が個人の場合、適正価格で売却できない可能性(割安価格で売却してしまう可能性) |
2. 譲渡額を口約束で決めてしまうと、金銭トラブルに繋がる |
3. 直接対話する機会が少ないと、トラブルに発展する可能性がある |
4. 歯科医院の内部状況を、承継先が100%把握してくれるとは限らない |
5. 電子カルテやレセプトデータを移行する、手間と時間がかかる |
最も懸念すべきデメリットは、適正価格で売却できない可能性です。
日本では年々、歯科医院の大型化が進んでおり、適正価格が数億円単位になるケースが増加しています。
しかし、個人の歯科医師が医院を開業しようとする場合、銀行融資の関係上8,000万円程度までしか借り入れができません。
したがって、たとえ受け渡したい歯科医院の価値が8,000万円以上だったとしても、それ以上の金額では個人相手に譲渡することが難しいため、必然的に法人や投資ファンド、商社などが有力候補となります。
第三者への事業承継は、「適正価格で引き継いでくれる相手を見つけられるかどうか」が、成否の鍵を握っていると言っても過言ではありません。
法人の継承先に伝手がない場合は、歯科医院専門のコンサルティングサービス会社への依頼を検討してみましょう。
事業拡大(分院展開)を希望する第三者への事業承継
4つめにご紹介するのは前述したM&Aの一種である、事業拡大(分院展開)が目的の事業承継です。
医療法人が事業拡大のために分院展開をする際、閉院予定の医院を場所と機材のみ(居抜き)承継するケースがあります。
ただし、いわゆる「居抜き医院承継」と呼ばれる形態は場所と機材以外は引き継がないため、患者様やスタッフについては引き継がないことが一般的です。
患者様やスタッフにとってメリットはなく、売手にとっても高額な売却は期待できないため、弊社では閉院する前により高額な収益が見込めるM&Aを推奨しています。
なお、事業拡大(分院展開)が目的の事業承継は従来から存在するものの、売手の歯科医師にとってはデメリットが多いうえ、売却希望医院の数に対して、売却ができる医院の数は少ないのが現状です。
- 売手にとっての旨味は、機材だけ売るよりもマシな程度
- 買手にとっては物件と機材のみの譲渡なので、スタッフや患者は引き継げないことが多い
- 従業員や患者様にとっては場所以外すべて変わってしまうため、デメリットが大きい
上記の現状を踏まえると、事業承継の相手は「親族」または「勤務医」、「第三者」のいずれかが選択肢となります。
個人開業の歯科医院を事業承継するケース
個人開業の歯科医院を事業承継する際は、以下のような諸手続きが必要です。
承継条件交渉および確定のために必要なこと |
---|
1. 改修工事や追加医療機器を手配する打ち合わせ、および見積もりの依頼 |
2. 承継譲渡契約、およびスタッフへ継続雇用の条件などを通達 |
3. 融資申込、および融資承認 |
4. 患者や関係業者へ承継の告知、および広告や印刷物などの手配 |
5. 融資の実行 |
6. 歯科医院の引渡し(契約条件を遵守しているかを確認) |
開業後に行うべきこと |
---|
1. 保健所:廃止届(X 線装置)・開設届・X 線装置備付届 |
2. 厚生局:廃止届・保険指定申請・遡及願・引継書・施設基準書 |
3. 管轄官庁:生活保護指定解除届・生活保護指定申請 |
4. 社保支払基金・国保連合会:諸届け |
また、これらがスムーズに進むことは希であり、交渉やスタッフとの話し合いが長引いた結果、事業承継が完了するまで1年以上かかるケースも珍しくありません。
そもそも個人開業の歯科医院は、そのほとんどが初めて事業承継を行うため、慣れていないのはもちろんノウハウも持ち合わせていません。
何より、この規模の歯科医院に興味を示す買手も少ないため、途中で頓挫するなど非常に不確実性が高いのが実情です。
個人開業歯科医院の事業承継に必要な届出
個人開業歯科医院の事業承継に必要な届出は、大きく「現経営者が行う廃止手続き」と「承継者が行う開業手続き」に分かれており、それぞれ以下のようなものが想定されます。
▼現経営者が行う廃止手続き
- 診療所廃業届:廃止後10日以内に、保健所へ提出
- 診療用エックス線装置廃止届:廃止後10日以内に、保健所へ提出
- 保険医療機関廃止届:廃止後10日以内に、地方厚生(支)局事務所などに提出
- 事業廃止届出書:廃止後、速やかに税務署へ提出
- 個人事業の開廃業等届出書:廃止1か月以内に、税務署へ提出
- 給与支払事務所等の廃止届出書:廃止1か月以内に、税務署へ提出
▼承継者が行う開業手続き
- 診療所開設届:開設後10日以内に、保健所へ提出
- 診療用エックス線装置備付届:開設後10日以内に、保健所へ提出
- 麻薬施用(管理)者免許申請:締め切りや処理期間は、地域ごとに異なる
- 保険医療機関指定申請書:締切日は歯科医院開設地管轄の地方厚生(支)局事務所ごとに定められている
- 保険医療機関遡及願:地方厚生(支)局事務所の規定に従う
- 個人事業の開廃業等届出書:開業1か月以内に、税務署へ提出
- 青色申告承認申請書:開業後2か月以内に、税務署へ提出
- 青色専従者給与に関する届出書:経費算入開始の2か月以内に、税務署へ提出
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書兼納期の特例適用者に係る納期限の特例に関する届出書:給与支給人員が常時10人未満の場合は通常、源泉徴収を毎月納付する義務があり、申請が通れば年に2回にまとめることが可能
なお、開設手続きは地域によって取り扱いが違ううえ、ケースによっても必要書類が異なるため、あらかじめ専門家に相談しておきましょう。
医療法人の歯科医院を事業承継するケース
医療法人における歯科医院の事業承継は、大きく以下の2パターンに分けられ、設立された年度によって事業承継のやり方に違いがあります。
- 「出資持ち分あり」の旧医療法に基づいて設立された医療法人
- 医療法改正後に設立された「出資持ち分なし」の医療法人
まず大前提として医療法人には株式がないため、「経営権」と「配当を受ける権利」はどちらもありません。
言い換えれば、新法であろうと旧法であろうと、医療法人の事業承継においては「経営権」をどのように移すか、さらに「お金」をどうのように支払うかがポイントになるのです。
経営権の移管については新法・旧法ともに同じ方法で行えますが、お金(代金)の渡し方は大きく異なります。
旧法の医療法人では出資持ち分があるため、税法上の取り扱いは「株式」とほとんど同じになっており、出資持ち分を株式として譲渡した代金に対して、20.315%の税金がかかります。
一方、新法の医療法人は株式に相当する出資持ち分がないため、単純に取引できない分難易度が高く、専門的なスキームが欠かせません。
他方で、歯科医院に対してサービスを提供している株式会社(MS法人)を所有されている場合も多く、そちらについての価値が評価されるケースも散見されます。
新法の医療法人が事業承継を行う場合は、適法性に留意しつつ進めるためにも、プロのサポートを受けた方が安全です。
医療法人歯科医院の事業承継に必要な届出
医療法人歯科医院の事業承継に必要な届出は、以下を参考にしてください。
- 医療法人役員変更届:保健所へ提出
- 医療法人の登記事項の届出:変更後の登記事項証明書を、保健所に提出
- 保険医療機関届出事項変更届:地方厚生(支)局事務所へ提出
- 医療法人役員変更登記申請書:法務局へ提出
- 異動届出書(代表者の変更):税務署へ提出
こちらも、ケースバイケースで必要な届け出が異なるため、専門家に相談しましょう。株式会社の歯科医院を事業承継するケース
株式会社と医療法人では、事業承継において以下のような違いがあります。
- 医療法人:医療行為に関する資格や経験が必要
- 株式会社:医療法人ほど医療行為に関する規制が少ないため、後継者の選択肢が広がる
事業承継において後継者の選択肢が広がるのは、株式会社ならではの強みと言えます。
その反面、患者から見て高い専門性を備えていないことがデメリットになることも否めません。
なお、株式会社は営利目的の法人ですから、歯科を始めとする医療を提供する施設の経営は、原則的に禁止されています。
医療サービスの提供が主たる業務ではなく、製造業といった他の業種にも従事しているケースであれば可能ですが、都道府県より許可されるのはごく稀と言えるでしょ
歯科医院の事業承継を行う流れ
歯科医院の事業承継は、以下の流れに沿って行うのが一般的です。
売手側 | 手順 | 買手側 |
---|---|---|
引き継いで欲しい相手に求める条件を洗い出し、自身のビジョンを踏襲してもらうか、もしくは自由に経営してもらうか、大筋を決めておく。 | ①相手に求める条件と、開業後の基本方針を熟考する | 開業エリアや開業時期などの条件を洗い出し、自身が経営する予定の歯科医院のコンセプトを定めておくことで、選択作業がスムーズに行える。 |
事業承継のイメージを伝え、実現可能かどうか相談する。豊富な候補者リストを保有している専門家に相談した方が、効率的かつリスクヘッジになる。 | ②第三者が対象の場合は、歯科医院の事業承継に特化している専門家へ相談する | 事業承継のイメージを伝え、実現可能かどうか相談する。豊富な候補者リストを保有している専門家に相談した方が、効率的かつリスクヘッジになる。 |
信用できる専門家が決まったら、秘密保持契約と仲介契約を結ぶ。 | ③契約書の締結 | 信用できる専門家が決まったら、秘密保持契約と仲介契約を結ぶ。 |
条件に合った「承継先」をリストアップしてもらい、候補を絞り込む。 | ④事業継承の候補を選定 | 条件に合った「歯科医院」をリストアップしてもらい、候補を絞り込む。 |
「承継先」の候補と面談し、歯科医院の内見に立ち会いながら、内情を説明する。 | ⑤絞り込んだ候補と面談・内見 | 「譲渡元」の候補と面談し、歯科医院の内見を行う。 |
内装の手直しや既存設備の修理など、双方が納得できる条件を決める。 | ⑥相手を決定し、条件調整・合意書締結を行う | 内装の手直しや既存設備の修理など、双方が納得できる条件を決める。 |
承継側が実施した買収監査の結果を踏まえ、問題がなければ契約書を締結する。 ただし、規模が小さい個人経営の歯科医院の場合は、監査を行わないケースもある。 | ⑦買収監査・最終条件の調整・契約書の締結 | 承継側は、合意書締結後に譲渡側の歯科医院に不備がないか「買収監査」を行い、問題がなければ契約書を締結する。 ただし、規模が小さい個人経営の歯科医院の場合は、監査を行わないケースもある。 |
譲渡側が承継側へ、歯科医院の資産を受け渡す。 | ⑧事業承継の実行・支払い | 承継側が譲渡側へ対価を支払う。 |
- | ⑨行政手続き | 承継側は、歯科医院を管轄する保健所に「診療所開設届」を提出し、検査を受ける。 |
承継側へ、建物や医療機器などのハード系資産を受け渡す。 場合によっては、電子カルテや既存スタッフの引き渡しも行う。 | ⑩ハードの引き継ぎ | 譲渡側から、建物や医療機器などのハード系資産を受け取る。 場合によっては、電子カルテや既存スタッフの引き渡しも行う。 |
患者ごとの診療方針など、情報を提供する。 | ⑪ソフトの引き継ぎ | 患者ごとの診療方針などの、申し送りを受ける。 |
歯科医院の事業承継にかかる費用相場
継承開業にかかる費用の主な内訳は、以下の通りです。
費用項目 | 特 徴 |
---|---|
譲渡代 | 営業権と譲渡対象資産の合計額で、費用の大部分を占める。総額は、歯科医院の所在地や評価額(価値)によって決まる。 |
仲介手数料 | 仲介会社や条件によって異なる |
弁護士費用 | 大手が買手の案件では、投資対象の価値やリスクなどを調査するデューディリジェンスを行うため必須。 ただし、中小が買手の案件では、弁護士を手配しないケースもある。 |
医師会入会金 | 買手が医師会に未入会の場合も多いためケースバイケースだが、傾向としては希。 |
内装費用 | リニューアルが必要な場合のみ発生する。 |
医療機器代 | 新規購入、または入れ替えが必要な場合のみ発生する。 |
歯科医院の事業承継にかかる費用の大部分を占めているのが、「譲渡代」です。
小規模案件における譲渡代は、以下の理由により高額での譲渡は難しいとされています。
- 個人間の事業承継が多く、譲渡先に潤沢な資金がない
- 買手の多くは、より多くの資金を安全に調達するノウハウを持っていない
- 売手の多くは、本来の適正価格を算出するノウハウを持っていない
- お互いに契約や手続きのノウハウがない
そこで注目されているのが、歯科医院の事業承継を数多く手掛けている専門家の存在です。
M&Aの仲介会社は、歯科医院の適正価格を算出する方法や資金調達のノウハウを熟知しています。
さらに、歯科業界に強い外部の企業であっても、投資ファンド等、歯科医院の承継に関心を示す候補先のリストを多く持っており、より高額な金額での事業承継を実現しているのです。
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事業承継した歯科医師の成功事例
この章では、当社代表の水谷が支援した事業承継のうち、成功事例の一部をご紹介します。
ガイドブックでは他にも成功事例をご紹介していますので、ご興味にある方はぜひアクセスしてみてください。
まとめ
この記事では、歯科医院の事業承継について、あらゆる角度から深掘りした情報をお届けしてきました。
日本の歯科医院は後継者不足が深刻化しているものの、多くの歯科医師は後継者問題への対応策を持たず、今後、地域の歯科医療の担い手が不足し、社会問題化されることも予想されます。
そういった状況に対して、第三者へ事業承継(M&A)が今後、より注目されてくることは間違いありません。
とはいえ、理想的な承継者を見つけるのは簡単ではなく、ましてルールが複雑かつ規制が厳しい医療法人の場合はハードルが高いのが実情です。
株式会社と比べてハードルが高い歯科医院の事業承継をスムーズかつ有利に進めるには、歯科業界を熟知し、歯科医院M&Aの経験が豊富なプロのM&A仲介会社への依頼を検討してみてはいかがでしょうか?